講座「日蓮をはぐくんだ房総地域の歴史と宗教」第1講オンライン講座

講座「日蓮をはぐくんだ房総地域の歴史と宗教」第1講オンライン講座
2021年4月20日 commons

2021年4月20日(火)午後6時30分より、菊地先生の2021年度後期講座【歴史から考える日本仏教⑦】〈日蓮をはぐくんだ房総地域の歴史と宗教〉第1講「房総地域の古代史」が行われました。新型コロナウイルスの感染予防のため、昨年度にに引き続きZoomによる動画を生配信し、受講生の方々が各自オンラインで受講しました。

 

日蓮が活躍した中世だけでなく、房総地域が古代以来どのような宗教環境であったのかを幅広い知識と豊富な史料をもとに緻密かつ明瞭にお教え頂きました。

 

本講座では、日蓮に先立つ、房総地域の古代史を中心に参考文献である、千葉県史料研究財団編『千葉県の歴史』、石井進他編『千葉県の歴史』を用いつつ、本講義のタイトルである「房総地域の古代史」についてご講義頂きました。以下、内容について要点を絞りご紹介いたします。

 

はじめに

風土と歴史・文化・宗教の関係について、その土地柄や環境が歴史や宗教に与えた影響は、単に地域史、郷土史のみならず、日蓮のような思想家を考察するときにも有効であること、また、地方史から考えることの意味について、通史のおもしろさ、中央の政治史との関連を捉えながら考察することの重要性をご教示いただきました。

 

1 古代国家の成立と房総地域

5世紀に建設されたとされる稲荷台1号墳(市原市国分寺台)より出土した鉄剣から、房総地域が東国の中でもいち早くヤマト王権とつながりがあったことを示した上で、上総・下総・安房の三国がどのように成立していったのか、参考文献の記述や資料をもとに簡潔にご講義いただきました。中でも「総」の由来や「安房」の由来について様々な説を示しつつ、非常に興味深くご説明いただきました。

また、古代の房総地域における交通網についても資料をもとにその変遷や活用についてご教示いただきました。陸続きで考えると、都から遠いように見える房総半島中央部(上総)がかつては東京湾を経由してのルートが主であったために「上総」となったこと、9世紀以降、東海道の中でも「上総」や「安房」が主要道から外れており、それらへのルートが支線となっていたことなど、中央との交易ルートとしての位置づけを非常にわかりやすくご講義いただきました。

さらに、この交易ルートの考察を踏まえ『延喜式』に見られる「贄」や都への特産物の供給地としての房総地域について、史料をもとにお示しいただきました。特にアワビについて、都近くにその産地として有名な伊勢志摩がある中で、房総が非常に多くのアワビを納めていたということを、奈良に残る木簡史料から見る事が出来ること、こうした特産物を扱う「部民」が房総には多くおり、古墳時代以降、奈良時代に於いても都からの距離のわりに中央政府とのつながりが深いことをお示しいただきました。

 

2 房総地域と古代の宗教

続いて、房総に於いては7世紀後半には既に西国のものに酷似した大規模寺院が成立していたこと、聖武天皇による国分寺建立詔を受けて国内最大級の国分寺が上総に創建されていたことから、房総地域が産物の豊かな国であり、中央政府の意に従う強力な豪族がいたということ、さらに、国分寺成立までに中央政府の意に従うようにプラン変更が上総・下総両国で行われていたということもお示し下さいました。これらのことは、古代房総地域では中央に準じた仏教が浸透していたこと、さらには官僧となりうる優婆塞や写経僧の派遣が房総地域からなされており、中央は政治のみならず宗教面でも深いつながりがあったことを『正倉院文書』等を用いてお教え頂きました。

 

3 平安時代の房総地域

平安時代の房総地域における宗教を考えたとき鑑真の弟子である道忠の関東下向、さらにその後を受けるように初期天台教団の主要メンバーの一人である徳円が下総出身であることから北関東中心の仏教ネットワークの中に下総が組み込まれていたこと、それに対して日蓮の出身地である安房は8世紀前半までに創建された寺院はほとんどなく、一種の空白地であることをご教示頂きました。

次いで兵站供給地としての房総について、房総の兵士が蝦夷との争いのために陸奥方面へ派遣され、一部が定住していたこと、蝦夷の俘囚が配置されていたことを資料をもとにご教示頂きました。いわゆる捕虜を収容する地として房総があったと言うことは、軍事面においても房総は中央に対し、比較的従順な態度をとる地域であったことを意味しており、これまで述べてこられたように中央との深いつながりを持った地域であることをご教示頂きました。

 

おわりに

以上のような、古代における房総地域を多角的に多くの史料を用いてお示し頂き、聴講者一同、日蓮をはぐくんだ房総地域に一層の興味関心を抱くことが出来ました。

講義終了後、質疑応答がなされ熱心な質問が寄せられました。それらに対し菊地先生は丁寧にお答えくださいました。誠にありがとうございました。

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、Zoomによる講義となっておりますが、先生のご厚意により講義の様子はオンラインでも公開されております。是非多くの方にご視聴いただき、講義参加のお申し込みをいただきたいと考えております。

次回、第2講「鎌倉幕府の成立と房総地域」は5月18日(火)午後6時30分~開講予定です。詳細につきましては「法華コモンズ」ホームページよりご確認ください。(スタッフ)