令和8年9月5日(土)、法華仏教講座「現代思想としての日蓮—上原專祿の日蓮論」が、対面とオンライン配信によるハイブリッド形式で行われた。講師は澁澤光紀氏。澁澤氏は、日蓮宗寺院の住職を務める傍ら、法華コモンズの事務局として当会の運営に尽力されている。本講座では、日本の戦後を代表する歴史学者である上原専禄の日蓮論について、激動の現代社会に応答する動態的な日蓮思想の可能性について、日本のみならず世界情勢をも視野に入れながら、多角的視点から解説された。
前半は、上原専禄の生涯について年表を中心に紹介し、その人生における読書について、「享楽としての読書」「禁欲としての読書」「闘争としての読書」「回向としての読書」という四つの時期に分けて概観した。幼少期から日蓮遺文や法華経に親しみ、欧州留学を通じて史料批判を学んだ上原は、戦後には「世界―日本―自己」という視点から世界史像の形成を追究し、晩年には「死者・生者」と日蓮との関係を深く考えるに至った。
後半は、上原の日蓮論における「歴史学者としての視座」と「宗教者としての視座」を中心に述べられた。とりわけ1965・66年の岩波市民講座を契機とする「日蓮認識の世界史学的方法」、すなわち世界史から日蓮を見ると同時に、日蓮から世界史を見る「世界史=日蓮」という往還的な視座が印象的であった。晩年には、妻の死を契機として「死者のメディア」という認識に至り、上原自身が「日蓮の分身」となることを目指す思想へと展開した。そこには、全死者と全生者との共存・共生・共闘という世界史像への構想が示されている。
本講座は、日蓮を歴史上の宗教者としてのみ捉えるのではなく、日蓮及びその思想を、現代の世界史的現実を生きる私たち自身の問題として問い直す、上原專祿の日蓮論の今日的意義を考える貴重な機会となった。かかる視座は、法華コモンズの理念である「日蓮仏教の再歴史化」にも一脈相通ずるものがあり、重要な示唆を与えていただいた。(スタッフ)