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令和元年9月17日(火)午後6時より、菊地先生の講座【歴史から考える日本仏教③】〈日本宗教史の名著を読む〉第6講「ジェームズ・ケテラー「バベルの再召―東方仏教と1893年万国宗教大会」を読む」が行われました。まず本論文の精読に先立ち、前回第5講西村怜著「近世仏教論」の4.戒律運動とその展開、5.近世から近代へ、の両章を精読しました。前回講座の際菊地先生より、この両章は第6講に連なる内容のため、第6講の論文と併せて精読する旨ご教示があり、通常より30分早く講座を開始して、ご説明をいただきました。

まずは、4.戒律運動とその展開。近世は捨世僧や律僧など諸国を遍歴して自由に活動し、戒律・座禅などの実践修業を行う僧がいた。これらの僧はインドの釈迦を根本とし、戒律を重視し日常規範としての小乗戒を持つ「良心的な僧侶」であった。菊地先生は、西村氏は触れていないが、真言宗僧でありながら、明治19年にスリランカに渡り、日本人ではじめて上座仏教の正式な僧となった釈興然も、この系譜に位置づけられるのでないか、と指摘。次に、5.近世から近代へ。近世における代表的な二つの排仏論に、富永仲基や普寂などにより提唱された須弥山論争と大乗非仏説論争があり、近代まで続く大論争となった。近世仏教の概観について西村氏は、「それまでの中世的要素の排除が開始され、仏教思想は一般化し普遍化して、近世の思想となってゆく」と説くが、菊地先生は、どの時期の中世思想かという提示が無く、中世思想の通時的理解をごく簡単にでも示すべき、と指摘。また近世仏教の可能性について「たんに「仏教史」という縦割構造の中で閉塞的に通史的展望を模索するのではなく、「日本思想史」全体のなかでダイナミックに位置付けてゆく。「近世仏教を考える」から「近世仏教から日本思想史を考える」ことが重要である、と今後の展望についてご教示いただきました。

5分ほどの休憩を挟み、ジェームズ・ケテラー「バベルの再召―東方仏教と1893年万国宗教大会」を精読しました。論文の著者ケテラー氏はシカゴ大学で博士号を取得、スタンフォード大学を経て現在はシカゴ大学に戻っている。本論文は『邪教/殉教と明治―廃仏毀釈と近代仏教』の第四章に所収。

内容について。1893年に開催された「万国宗教大会」の内容や目的、そこに招待された参加者の思想や言動について説かれており、特に以下の点について解説をいただきました。1.はじめに。19世紀における日本と西洋は敵対関係にあり、日本は戦略的オリエンタリズムによる東洋の中での優位を目的とし、西洋はバベルの再召集を通して国家や民族、信条の新しい調和の樹立を目的とした。加えて明治の日本の仏教者は、今回の大会を日本国内で利用しようと考えており、一方でアメリカでは、産業革命により唯物論が勃興し宗教が否定され、信仰の再編と象徴性を必死に求めていた、と参加者それぞれの「万国宗教大会」への思惑について指摘。2.招待。大会議長のヘンリー・バローズは、キリスト教的に宗教が統合されることを十箇条の目標として提示した。またダーウィンの進化論や、カントの道徳律にもとづく超越論的カテゴリーにより、キリスト教的な定義における文明のもとに完全に統合することを目指した。3.大会での宗教概要。ハーバート・スペンサーやマックス・ミューラーなどの学説により、いわゆる十大宗教を判断するための宗教としてキリスト教があり、キリスト教は地域・民族を超えて根本的に進化する能力を持つ唯一の宗教である宣告された。日本から参加した仏教者達は、自分たちの宗教意識を主張することもそれをうまく表現することもできなかったが、彼らによって大会後に日本でなされた公式発表は、物質的満足に比して精神生活を欠いた西洋人に対し、大乗仏教を高らかに堂々と宣言した(=戦略的オクシデンタリズム)、というものであった。4.他者の構築。大会に参加した他者は、外来の存在と定義され、大会の成立にとって受動的な存在であった。5.仏教のチャンピオンら。日本からは、臨済宗、浄土真宗、天台宗、真言宗、在家の五名が参加したが、在家の平井以外は英語がほとんどできず、キリスト教の光に支配された大会の計画に参加することに疑念を抱かなかった。また、アメリカでは日本の仏教は、神智学的な印象(テーブル叩きや降霊術)を持たれた。6.地球一周。日本から大会に参加した五名は「仏教海外布教の嚆矢者」と呼ばれ、仏教の伝道者たちは「無形的アメリカ」の正体を暴き、「無上の大涅槃図」を樹立するための好機と考えた。7.おわりに。シカゴ万国宗教大会において、キリスト教と仏教の双方とも、自分たちの真理こそが最終的には優位に立つものであることを相手に納得させたと信じ込んでいた。その後明治後期の日本では、進化論と社会性のもとに妥協と国家イデオロギーへの協力が進んでいく。最後に今後の課題と展望について。菊地先生は、グローバル・ローカル・グローカルのタームを挙げ、宗教・文化・言語の統合は、今後の重要な課題であり、お互いに関与し合っていくことが大切である。また、日本の伝統的な既成宗派をそのまま肯定するわけではなく、今日的な宗派の意味・あり方を考えていく必要がある、と指摘し、本論文の詳細な読み解きが終了しました。最後に、本講座3回以上の受講者に対し、菊地先生より受講修了証が手渡されました。

講座終了後は、菊地先生を囲んでの懇親会が行われ、先生は参加者一人一人のお話に耳を傾け、親しくお話をされていました。楽しい時間はあっという間に過ぎて、和気藹々とした雰囲気のうちに解散となりました。

本講座をもちまして、法華コモンズ仏教学林 菊地大樹先生2019年度前期講座「歴史から考える日本仏教③日本宗教史の名著を読む」が修了しました。10月からは引き続き後期講座「歴史から考える日本仏教④鎌倉仏教史の名著を読む」が開講されます。第1講は「上島亨「鎌倉時代の仏教」を読む」、10月15日(火)開講予定です。菊地先生の深広な知識の一端に触れるまたとないチャンスです。当日のみの受講も大歓迎ですので、事前にご連絡頂ければ「事前資料の論文」をお送りします。どうぞご聴講ください。(スタッフ)

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