令和3年1月8日(土)午後4時30分から、末木文美士先生による連続講座「仏教哲学再考―『八宗綱要』を手掛かりに③」後期第3回目が開催されました。今回も、テキスト第六章「天台宗」を深く掘り下げ、「日本天台宗を考える」ということをテーマに、「最澄の理想」「安然による密教化」「山家・山外と性善・性悪」の三章にわけて講義されました。
「最澄の理想」では、大乗戒における菩薩の問題として、最澄と徳一の「一乗三乗論争」をとりあげ、その論点は「菩薩とは何なのか」ということだったのではないか、と独自の見解を述べられました。続いて、最澄の『山家学生式』にある、理想とする国のありかたを明かす六条式(照千一隅の文)と、なぜ大乗戒を採用したかを明かす四条式(真俗一貫の文)を読み解き、在家と出家が大乗戒によって共に菩薩になりえるとしたことで、互いに協力しあうことが最澄の理想であり、さらに最澄はその後、『法華経』を絶対化していくことになる、と解説されました。
「安然による密教化」では、安然は天台の密教を完成させ、本覚思想の原型をつくり大きな役割を果たした、と説明されました。安然の密教は、理論的な関連からいくと空海と深く関わっており、空海批判から安然独自の思想を築いていったことを指摘されました。共通点として、二人が『釈摩訶衍論』を重要視していることを示し、さらに二人の大きく異なる要点として、空海の『十住心論』(段階的・差別化)と安然の『教時義』(四一教判・すべてが真如であり平等)を比較し、それぞれの『釈摩訶衍論』(十識説)の捉え方の違いを解説されました。
「山家・山外と性善・性悪」では、山外派の性善説は、止観を実践する場合は現実的として捉えることができるが、「十界互具」においてはやはり山家派の性悪説の方が人間観としては優れている、とされました。さらに、安然は性善説・性悪説の両方の思想が含まれているのではないか、と論じられ講義終了となりました。
令和3年度後期講座は全4回の講義となります。末木先生の講義は、日本仏教を再認識するだけでなく、毎回高度な質問が飛び交い、大変参考になる講義でございます。聴講の申し込みお待ちしております。詳細につきましては、「法華コモンズ」ホームページからご確認ください。(スタッフ)