講座「『法華経』『法華文句』講義」第39回講座報告

講座「『法華経』『法華文句』講義」第39回講座報告
2021年8月30日 commons

去る8月30日(月)午後6時半より第39回「『法華経』『法華文句』講義」が開催されました。菅野先生は、この9月上旬には日本仏教学会と宗教学会が予定されているが、共にオンライン開催になりこの講義もオンライン開催が続くが、しかしリモートでも勉強はしっかりできるので頑張りましょうと話されて、講義をはじめられました。テキストは418頁の4行目の「「吾従成仏已来」従りは~」からになります。

 

今回の講義での『法華経』の経文は、以下の方便品の最初のところです。

舎利弗。吾従成仏已来。種種因縁。種種譬喩。広演言教。無数方便。引導衆生。令離諸著。所以者何。如来方便。知見波羅蜜。皆已具足。舎利弗。如来知見。広大深遠。無量無碍。力。無所畏。禅定。解脱。三昧。深入無際。成就一切。未曾有法。舎利弗。如来能種種分別。巧説諸法。言辞柔軟。悦可衆心。舎利弗。取要言之。無量無辺。未曾有法。仏悉成就。止舎利弗。不須復説。所以者何。仏所成就。第一希有。難解之法。唯仏与仏。乃能究尽。諸法実相。所謂諸法。如是相。如是性。如是体。如是力。如是作。如是因。如是縁。如是果。如是報。如是本末究竟等。

 

経文の解釈に入る前に、「方便品」の題名の意味について、光宅寺法雲の「権実二智論」を論じたご自著の『中国法華思想の研究』(春秋社、1994)を引いて、詳しく説明されました。

引用は同書の「第三説『法華義記』における一乗思想の解釈 ―権実二智論と因果論―」です。

その説明ですが、『法華経』は一乗思想を明らかにするために、声聞・縁覚・菩薩の三乗思想を説いています。法雲は、その三乗が仮りの方便【権智】であり一乗(仏乗)のみが真実【実智】であることを明かすために、「権実二智論」という独自の枠組みをもって解釈しました。つまり法雲は、『法華経』おける三乗と一乗との関係を、仏の智の二側面すなわち「権智=方便智」と「実智」という視点から解釈した、ということでした。この「方便」の意味を押さえてから、『法華文句』の経文の解釈に入っていきます。

テキストに「「吾従成仏已来」従りは、是れ釈迦の権実を歎ず」とあるように、経文解釈は法雲の権実二智論をふまえての天台の解釈となります。以下、菅野先生が用意されたレジュメの語句説明をすこし編集して、その概要を引いておきます。

 

『法華文句』の語句の解釈

「吾従成仏已来」……釈迦の実智をたたえる

「種種因縁」……釈迦の権智をたたえる

「[種種]譬喩」……小乗のなかでは芭蕉・水粒を比喩とし、大乗のなかでは乾[闥婆]城 (ケンダツバジョウ)・鏡・幻などを比喩とする。

「広演[言教]」……一法から無量の意義を出すことができるのである。

「無数方便」……七種の方便である。

「引導衆生令離諸著」……散[心]の十善を説いて三途の執著を離れ、浄[心](定心)の 十善を説いて欲界の執著を離れ、三蔵[教]を説いて見思[惑]の執著を離れ、菩薩の法 を説いて涅槃の執著を離れ、仏法を説いて順道法愛(中道の法に対する執著で、初住以前 で起こす)の執著を離れる。

「所以者何」……[権実]二智をどちらも解釈するのである。

「如来」(「如来方便」という一句の前半)……実智を解釈する。

「方便」……権智を解釈する。

「知見波羅蜜」……権実の知見をどちらも取りあげる。  実知(一切種智)、 実見(仏眼)、 権知(道種智)、 権見(法眼)、 波羅蜜(すべての事理の果て【辺】に到達すること)。

「皆已具足」……権実はすべて究極的となること。

「如来知見広大深遠」……実智を結論づける。

「無量無礙」……権智を結論づける。「無量」……仏地の四等心(慈・悲・喜・捨の心を無量に起こす四無量心)。 「無礙」……仏地の四無礙辯(法・義・辞・楽説の四無礙辯)。

「力」…十力 ①処非処智力、②業異熟智力、③靜慮解脱等持等至智力、④根上下智力、⑤種種勝解智力、⑥種種界智力、⑦遍趣行智力、⑧宿住随念智力、⑨死生智力)・⑩漏尽智力。

「畏」……四無所畏 ①正等覚無畏、②漏永尽無畏、③説障法無畏、④説出道無畏。

「禅」……禅の真実の様相【実相】に達する【尽】こと。

「定」……首楞厳定 śūraṅgama-samādhi 。

「三昧」……[三昧]王三昧(三昧のなかの王の意で、最高の三昧のこと)

「深入無際」……縦に深いことをしっかりと結論づける。

「成就一切未曾有法」……横に広いことをしっかりと結論づける。

「舎利弗如来能種種分別」……言葉を絶しよう(言葉による表現を断ち切ること)として、 さらに権実[二智]を取りあげて、[言葉を]絶してたたえる【絶歎】の理由【由】とする。

「如来能善分別巧説諸法」……権[智]を取りあげる。

「言辞柔軟悦可衆心」……実[智]を取りあげる。

「取要言之」……実[智]の境(智慧の対象)を指す。

「無量無辺未曾有法」……権[智]の境を指す。

「無量無辺」……権[智]を指す。

「未曾有法」……実[智]を指す。

 

最後に424頁2行目に出て来る「印師」と「観師」について、次のように説明されました

印師は、斉の中興寺僧印(四三五―四九九)のことで、慧龍より『法華経』を学んだ。光 宅寺法雲の師である。 観師については未詳だが、灌頂『大般涅槃経疏』巻第五、「光宅云、仏果無有自反照智。観師難光宅 云、仏無反照智、亦応不自知作仏不作仏」とあるように法雲を批判 したとなると、鳩摩羅什の弟子の道場寺慧観ではないことは明らかである。以上、テキストの424頁5行目までを講義されて、終了しました。

また、テキストの修正として、以下を示されました。

○418 頁 7 行 「実の文を歎ずるを結ぶ」→「実を歎ずる文を結ぶ」

○419 頁 2 行 「吾従成就已来」→「吾従成仏已来」

○424 頁 1 行 「止者」→「止舎」

 

第40回目を迎える次回は、9月27日(月)午後6時半より、オンライン実況にて行います。後期の10月からは対面講義ができればと期待しています。皆さま、後期講座の受講申込をどうぞ宜しくお願いいたします。

また福神研主催の「『摩訶止観』講義」は、『文句』の対面講義が再開されてから、暫く様子を見て対面講義で開催したい、との菅野先生のお話です。またお知らせいたします。(担当スタッフ)