講座「仏教哲学再考―『八宗綱要』を手掛かりに」②第1講 講義報告

講座「仏教哲学再考―『八宗綱要』を手掛かりに」②第1講 講義報告
2021年5月8日 commons

2021年5月8日(土)午後4時30分から、末木文美士先生による「仏教哲学再考―『八宗綱要』を手掛かりに②」の新年度としては第1回目の講義が開催されました。

鎌田茂雄『八宗綱要』(講談社学術文庫)を講義のテキストとしています。二期目の今回は第四章「法相宗」202頁からのスタートです。

末木先生が講義概要に「形式的に主要概念を羅列しただけのところも多く、いわば 暗記用の受験参考書のような味気ないところがある。それ故、手掛かりとしては便利であるが、それ以上の内実を求めるのは難しい」と書かれたように、その内容が理解し難いところがあります。しかし同じく講義概要に「本講義では、講読という形ではなく、本書を手掛かりとしつつも、それに捉われずに、諸宗の教学を今日どのように受け止め、考えたらよいのか、応用的に問題を広げ、手探りして検討していきたい」とある通り、末木先生が現代の問題にも関連させて解釈して講義して下さるため、日本の仏教をあらためて理解したい方には最適かつ貴重な講義になっていると思います。

末木先生は、はじめに①第一節「宗名」から⑭第十四節「結言」にいたるまでのテキストを確認してから、その内容を独自に六つの項目(序論・教理と教判論・人間論と実践論・存在論・認識論・悟道論)に分けられました。

序論として、①「宗名」、②「経論」、③「歴史」の各節について、どうして法相宗と名付けたのかという経緯や、依処とする『解深密経』や『瑜伽論』や『唯識論』等の経論に関して、そして印度から中国をへて日本にいたるまでの法相宗の歴史について、解説がありました。

教理・教判論として、④「三時教判」では、『解深密経』において仏の教えを初時=有教(小乗教)・二時=空教(般若部の説)・三時=中道教(『華厳』『深密』等の説)の三つに分けて説いたということを詳しく説明されました。

人間論と実践論として、⑤「三乗と五性」では、三乗(声聞乗・縁覚乗・菩薩乗)にたいして定性・不定種性・無性という属性を組み合わせ、五性(定性声聞・定性縁覚・定性菩薩・不定種性・無性有情)の各別を立てて、その違いを強調する法相宗独自の教義について教示されました。最後に⑥「三乗の修行と得果」では、菩薩の修行の階位を四十一位としていることについて解説されて、講義終了となりました。

多くの刺激を得た講義でしたが、なかでも『法華経』に説かれる一乗思想(一切皆成)に対立する法相宗の五性各別思想について、様々な宗論をふまえて客観的視点から詳しく解説された今回の講義は、大変有意義なものとなりました。

次回は6月5日(土)4時30分より、オンライン実況での講義を行います。テキストは242頁の⑦第七節「五位百法」からとなります。当日も受講できますので、どうぞご聴講のほどお願いいたします。(スタッフ)