講座「日蓮霊跡の再認識と顕彰の歴史」第1講オンライン講座

講座「日蓮霊跡の再認識と顕彰の歴史」第1講オンライン講座
2021年4月27日 commons

2021年4月27日(火)午後6時30分より、寺尾英智先生の2021年度前期講座【日蓮霊跡の再認識と顕彰の歴史】第一回目の講座が行われました。当初は対面講義の予定でしたが、新型コロナウイルスの蔓延に伴い政府より緊急事態宣言が発令され、感染予防のためZoomによる動画を生配信し、会員の方々が各自オンラインで受講しました。

本講座のねらいについて講師の寺尾先生は、日蓮の活動に関わった場所は、後世霊跡と位置付けられた。鎌倉や房総などの日蓮霊跡が、知識人や庶民層などにどの様に認識されていたのか、また寺院側が霊跡をどの様に提示していたのか、霊跡の具体像の一端を明らかにしたい、と説明されました。以下内容について要点を絞りご紹介致します。

一、講義の視点

第一回目となる本講座では、近世における日蓮霊跡について、松葉谷法難や龍口法難など、日蓮の事蹟が色濃く残る鎌倉を中心にみていく。最初に、

・近世において広範な寺社参詣が隆盛した。遠隔地の霊山や有名寺社、また江戸など都市内の寺社など。

・様々な社会階層の人びとが参詣した。参詣者への紹介・案内の方法。

・寺社参詣の二面性。信仰と行楽、名所・旧跡としての寺社の様相。

以上のポイントを講義の視点として、近世鎌倉の日蓮霊跡について確認する。

二、地誌・名所記にみる日蓮霊跡

江戸時代の地誌・名所記として、徳川光圀が編纂した『新編鎌倉志』、様々な寺院が掲載され、現在のガイドブックのような体裁の『鎌倉名所記』、鎌倉のみならず東海道沿いの寺院を収め、挿絵(さしえ)が入っている『東海道名所図会』の三書をご紹介いただいた。それぞれの本に特徴があるが、いずれも全ての日蓮宗寺院を掲載しているわけではなく、取り上げられていないお寺も多くある。また、日蓮の信者向けに書かれたものではなく、全ての社会階層へ向けた一般的なガイドブックとして書かれているため、日蓮霊跡であると主張する寺院が、地誌には日蓮霊跡とは紹介されていない場合がある。『新編鎌倉志』と同時期に刊行された『鎌倉記』に、「鎌倉に日蓮の霊跡はたくさんあるが、霊跡であることを記す書は見られない」と日蓮霊跡を主張する寺院について客観的に記されている。

三、標識としての石塔と縁起

現在に生きる我々は、石塔にさほどの関心を寄せないが、近世当時の人びとは石塔を重要な案内標識(看板)として認識していた。石塔の形式は、

①塔身中央に題目を大きく配置する題目塔

②塔身正面に霊跡であることを大きく配置する石塔

二つの形式がある。石塔をめぐる事例として、同じ本圀寺末である妙法寺と長勝寺は、松葉谷草庵跡の由緒をめぐって本寺である本圀寺に訴えた。その結果訴訟に負けた長勝寺は「松葉谷草庵跡」と言えなくなり、訴訟中は長勝寺に「松葉谷草庵跡」と刻んだ石碑があったが、敗訴後妙法寺により破壊されてしまった。また身延門流の本覚寺と比企谷門流の妙本寺は、橋をはさんで隣り合っているが、両寺は題目塔に同じような縁起を刻し霊跡由緒を主張し合っている。近世盛んに行われた出開帳を行う寺院にとって、観光客に霊跡寺院として案内することは重要な意味を持つため、多くの寺院が霊跡寺院であると主張し時に対立した。

四、まとめ

近世の寺社参詣と日蓮霊跡について、近世の地誌・名所記、寺院に残る石塔を中心にみてきた。『新編鎌倉志』等の地誌は、知識人から庶民層にいたる様々な社会階層の人びとに読まれた。これにより日蓮霊跡寺院には日蓮を信仰する人びとと、地誌を見て行楽に来る人びとがあった。また近世、江戸・大阪・京都の三都を中心に出開帳が隆盛した。出開帳において日蓮霊跡由緒寺院であることは、観光客を集客する上で重要な意味を持つため、寺院はそれぞれ石塔を建立し霊跡由緒であることを主張した。その結果、近隣の日蓮宗寺院同士が霊跡由緒を主張し合い、対立を招き訴訟に発展するケースがあった。このように霊跡由緒の主張と寺院経営が密接な関係を持っていたことが分かる。

寺尾先生は、事前にご用意いただいたレジュメに鎌倉の日蓮宗寺院に残る「石塔一覧」、加えてそれぞれの石塔に刻まれた文言をご紹介。更に『新編鎌倉志』等の地誌に収録されている日蓮宗寺院の記述、寺尾先生が撮影された各寺院の境内及び石塔の写真等、豊富な資料をご紹介くださり、近世鎌倉における日蓮霊跡の様相について、丁寧にご説明くださいました。講義後の質疑応答では4名の方から質問があり、寺尾先生は一つ一つの熱心な質問に丁寧にご回答くださいました。

次回は5月25日(火曜)6時30分より、新宿常円寺三階会議室にて対面講義を予定しております。なお、新型コロナウイルスの蔓延状況により、対面が難しい場合は動画配信に切り替わりますので、事前に法華コモンズホームページをご確認ください。(スタッフ)