令和3年3月27日(土)午後4時半〜、令和2年度「法華仏教講座」第6回が、西岡芳文先生(上智大学特任教授)をお迎えして執り行われた。講題は「中世の日蓮教団と富士信仰」。
新型コロナウイルス感染症蔓延に伴い一都三県に発出されていた非常事態宣言が同月21日に解除され、常圓寺祖師堂3階会議室で対面形式の講座が開催されることとなった。
西岡先生は、1957年生まれ、東京都のご出身。慶應義塾大学・大学院で日本中世史を専攻され、1987年に神奈川県立金沢文庫学芸員に就任された。その後、同文庫学芸課長を経て、2018年に退職され。現在は、上智大学特任教授(学芸員課程担当)として活躍されている。
これまで西岡先生が金沢文庫で担当された展示(図録)や御著書は頗る多く、『龍華寺〜武州金沢の秘められた古刹』(2000)、『蒙古襲来と鎌倉仏教』(2001)、『寺社縁起と神仏霊験譚』(2003)、『よみがえる鎌倉の学問〜称名寺聖教重文指定記念』(2006)、『陰陽道×密教』(2007)、『称名寺の庭園と伽藍』(2009)、『もうひとつの鎌倉文化』(2011)、『横浜の元祖 宝生寺』(2017)など多数に上る。主要論文も枚挙に遑がない。
今回、これだけの碩学から、日蓮門下の歴史に関連する講義が拝聴できるとあって、聴講者一同、大きな期待に胸が膨らんだ。
西岡先生のご講義は、金沢文庫奉職時における聖教の整理・調査・研究の様子、日常的なライフワークをお話し下さるところからスタートした。その段階で、西岡先生にしか語り得ない、聖教の管理保存・記録化の貴重な歩みやエピソードの数々を拝聴でき、目から鱗の連続であった。
次いで、先生の視線は富士山に向けられる。大要のみ綴れば、そこでは、三国一の名山と称された富士山が、先史時代から現代にいたるまで日本人に畏敬され信仰の対象でありつづけたこと。また、中世において富士山麓は東西日本の政治権力のせめぎ合う歴史的 な舞台となり、さまざまな事件の現場ともなったこと。そうした中で、形成された富士信仰は、神 祇・修験のみならずあらゆる仏教宗派において象徴的な意味づけがなされ、重要な役割を付与されてきたこと。以上が、大変詳細な裏付けと共に明らかにされた。
そして、以上を承けながら、ご自身が金沢文庫での調査で注目された『浅間大菩薩縁起』を基軸に論を運ばれ、日蓮門下、殊に日興門流における富士山の位置づけを考証の視座に据えながら、富士信仰、三仙人、金時・覧薩・日代、富士系諸寺の三堂の形態などの関係性を、厳密な裏付けを示しながら明快にご教示くださった。
パワーポイントを自在に駆使されながらの練られた明快なご講義で、講義後の聴講者への質問にも大変丁寧にお答え頂き、質疑応答をも含めると実に2時間45分の大講義となった。内容の充実ぶりと話の絶妙な展開から、瞬く間に時間が過ぎ去ったというのが受講者共通の所感であった。講義終了時には、聴講者から感嘆の拍手が送られた。
(スタッフ)