講座「日本宗教史の名著を読む」第5回講座報告

講座「日本宗教史の名著を読む」第5回講座報告
2019年8月6日 commons

令和元年8月6日(火)午後6時30分より、菊地先生の講座【歴史から考える日本仏教③】〈日本宗教史の名著を読む〉第5講「西村玲「近世仏教論」を読む」が行われました。今回の論文の著者西村玲氏は東京都生まれ。東北大学で博士学位を取得した。西村氏が2006年にプリンストン大学へ渡米する際、菊地先生のもとへご相談に来られ、先生のアドバイスをいただき渡米、充実した面持ちで帰国されたそう。筆者と菊地先生との微笑ましいエピソードを交えてご紹介いただきました。

はじめに、菊地先生は近世仏教について、江戸幕府の幕藩体制に組み込まれて僧侶は堕落してしまった、よって研究の価値無しというのがこれまでの評価だった。しかし近年は仏教を含めた江戸時代の諸制度について考え直されている、と説明。本論文は思想史中心だった過去の通史への反省にもとづき、制度的(歴史的)側面(枠組み)に光をあてて叙述している。概説的でありながら近世仏教を俯瞰し論じている、と指摘。また、しばしば近世仏教堕落論の出発点に辻善之助『日本仏教史』近世篇4冊が挙げられるが、同書に説かれるのは仏教堕落論というよりも、寺請制度・本末制度の2大制度により幕府に縛られた仏教であり、そこに大陸から伝わった黄檗宗などが抬頭した、とする上で、そもそも既成仏教堕落論は近世に限ったことではなく、たとえば鎌倉仏教は、平安時代の堕落した仏教から生まれたと言われている。宗教は中世→近世→近現代と連続しているため、各時代を切り取って論ずるのではなく、それぞれの時代を環往して検討しなければ日本仏教の本質は理解できない、と説明されました。

本論文の内容について菊地先生は、5章立ての本論文に沿って以下の点について説明されました。まず1.近世仏教の思想史的意義について。本論文中に「仏教の思想は、前近代の封建制度と迷妄の源泉とみなされ、戦後知識人の恃むべき思想とはなり得ないとされて、ほとんど研究されてこなかった」とあり、丸山真男にはじまる戦後日本の近世思想史をふまえた上で、近世仏教史全体の中で近世仏教を見る問題意識の共有が必要である。2.17世紀東アジアにおける日本仏教について。江戸幕府によってキリスト教禁令が進められ、禅宗とキリスト教が最も対立した。臨済禅僧宗崔は長崎に渡り民衆に五戒を授け、洗礼を基調とするキリスト教に対抗した。また黄檗宗が渡来し、仏教に限らず、江戸中期以降の絵画・建築・風俗・文学など様々な分野に大きな影響を与えた。加えて了翁道覚などの黄檗僧により、養育施設・被災者救済、大蔵経の寄付など出版活動と社会事業が行われた。3.教団・檀林と仏書出版。江戸幕府の宗教政策は、寺檀制度と本末制度に代表されるが、本論文ではこの2つに檀林制度を加えた3つの柱を基調に論じられている。殊に檀林制度は本山・檀林の権威を支え、仏書出版が盛んになり宗学研究を発展させたが、同時に思想体系を固定化し、兼学・兼行が難しい宗派意識を生んだ。4.戒律運動とその展開、5.近世から近代へ。この両章は次回第6講に連なる内容のため、次回論文と併せて精読する旨ご指示があり、本論文の緻密且つ詳細な読み解きが終了しました。質疑応答では2人の方の質問に対し、ホワイトボードに板書しながら丁寧に答えていただきました。

次回は「ジェームズ・ケテラー「バベルの再召-東方仏教と1893年万国宗教大会-」を読む」、9月17日(火)開講予定です。当日のみの受講も大歓迎ですので、事前にご連絡頂ければ「事前資料の論文」をお送りします。どうぞご聴講ください。(スタッフ)