2018年度:法華仏教講座「第5講:創価学会と公明党の歴史と課題」

2018年度:法華仏教講座「第5講:創価学会と公明党の歴史と課題」
2019年2月16日 commons
平成31年2月16日に法華仏教講座第5講として中野毅先生による「創価学会と公明党の歴史と課題」と題して開講されました。中野毅先生は創価大学文学部教授として比較宗教学や宗教社会学を長年ご指導され、昨年3月に定年退職。今回の講義では沢山の資料を提供してくださり2時間にわたる講義と30分間の質疑応答にも懇切丁寧にお答えくださいました。
創価学会が日蓮仏法を基礎として政治参加をすすめて55年、自民党との連立政権となって20年の歳月が経ちましたが、特に現在の安倍第二次内閣の連立に加わって以降、政権参画に関する困難な課題がより鮮明になってきました。今回は講義のポイントを3点にしぼり当時の資料と最近の研究成果を参考に創価学会と公明党の歴史を振り返り今日的課題を提示してくださいました。
今回の講義のポイント以下の通りとなります。
1.創価学会の理念と政界進出の理由再考:創価学会の基本目標は「広宣流布」であるが、何故、政界に進出したのか。戸田第二代会長は衆議院への進出、および政党化を考えていたのか、当時の資料(聖教新聞、大白蓮華など)に基づいて再度検討する。つまり「衆議院への進出」と公明党という「政党の結成」は、池田第三代会長の独自の判断なのか否か、という問いである。
2・安保法制への対応に見られるように、創価学会・公明党は保守・右傾化したのか?
3・最近の中心的な教義の変更と、その影響、課題。
以上の内容に沿って講義が進められました。
最初のテーマは、最近の創価学会研究書で戸田時代の「衆議院進出と国会議決」が話題になっているので、再度、検証していくというものでした。結論として、戸田会長は衆議院へ進出することも考えてないわけではなかったが、消極的であった。まず地方議会と参議院へでて庶民の生活の改善などを進め、折伏だけでなく政治や経済、言論など多様な文化活動を展開して広宣流布を進めていく。最終段階として国会の議決による「国立戒壇」の建立をめざした。政治進出は、あくまで広宣流布、戒壇建立という宗教的目標のためであって、政治そのものに深くコミットする意図はなく、したがって政党の結成については否定的だったことが明らかにされました。
池田会長時代は、当初は戸田路線を継承しましたが、1964年に政党「公明党」を結成し衆議院に進出します。この点は独自色が出てきましたが、この段階で「国立戒壇」論は放棄して戒壇は「民衆立」と主張し、日蓮正宗の国教化も否定して、憲法の「政教分離原則」を踏まえた展開をしていることも明らかになりました。ただ創価学会と公明党は「王仏冥合」をめざす上で「一体不二」であるとのが「政教一致」という批判もまねき、1970年の言論問題による両者のさらなる分離へと進みました。
後の二つは「法華コモンズ通信」最新号で理事長・西山茂先生が「創価学会の『功罪』」という一文を寄稿されたので、その問いに答える内容でもありました。2.の右傾化したのかという問いへは、そもそも創価学会は左翼でも右翼でもなく、「第三文明」「中道」を標榜していたこと、公明党の政策もイデオロギー優先ではなく、「生活環境の改善」や「福祉の増進」のような現実主義的政治であり、平和主義も「絶対的平和主義、非暴力無抵抗主義」ではなく「相対的現実主義」の平和をめざすものであるとの説明がされました。
ただし、自民党との連立がすすみ、特に安倍政権下での諸政策に不満をもち、その意味で公明党を支持できない会員が増えていることは事実であり、そのような政治的意見の相違があっても、創価学会は公式には「会員の政党支持の自由」を保障しており、それは基本的人権の一種でもあるので、その宗教活動から排除してはならないとの指摘もなされました。また今後の課題の一つとして、政治的見解の相違が創価学会内部の宗教活動に亀裂をうまないような体制の構築が必要ではないかとの提起がなされました。
3.の最近の教義変更の内容や「創価学会会憲」についても資料をもとに詳細な説明がなされました。要点は、①日蓮本仏論は維持しつつも、「戒壇本尊」中心主義からは離脱し、「南無妙法蓮華経」を三大秘法の根本とし、大聖人が図顕された十界の文字曼荼羅、それを書写した本尊は、全て根本法である南無妙法蓮華経を具現したもので、「本門の本尊」。それに向かって唱える題目が「本門の題目」、唱える場がそのまま「本門の戒壇」である。②創価学会という組織自体を「信心の血脈」に満ちた「仏」として聖化した。③三代会長を「広宣流布の永遠の師」と定める。④日本の創価学会を世界各地のSGI組織を統括する総本部とする世界組織(日蓮世界宗創価学会)の体制を構築した。
確かに大幅な教義変更などはあったが、宗教社会学の観点から考えると、創価学会や他の新宗教においても会員や信者は必ずしも「教義」のみによって活動しているわけではなく、各人の「信仰体験」が重要であること、「正本堂」の破壊によって会員の大多数は日蓮正宗の信心にもどる気持ちはなくなっていること、友人葬や他の生活儀礼を含む「家庭の宗教」として既に定着していることなどから、教義変更による会員減少への影響はさほどないのではないか、ということでした。
戸田会長時代から池田会長時代の政治と宗教の関わりと変遷。そして連立政権与党としての現在の創価学会と公明党の姿を読み解く上で非常に参考になる講義でした。当日は多数の参加者があり満席の状態となりました。一般ならび研究者の方々の活発な意見や質問などもあり、最後まで聞き逃せない内容となりました。 (スタッフ)