平成30年6月16日(土)、新宿・常圓寺様祖師堂において、大平宏龍先生による半日集中講座「慶林日隆教学の形成と特色」が執り行われた。
慶林坊日隆(1385〜1464)は、「本門八品上行所伝本因下種の南無妙法蓮華経」の教学を打ち立て、室町時代を代表する勝劣派の学匠として知悉される。その教学は八品門流教学の礎となっただけでなく、様々な形で他門流の教学にも甚大な影響を与え、日蓮教学史上もっとも脚光を浴びる大学匠の一人である。
その日隆教学の専門家として広く知られる、興隆学林専門学校学林長・大平先生から、最先端の研究成果を直接ご教授頂ける得難い機会とあって、当日の聴講者は、日隆門流関係者をはじめ、一線で活躍する法華教学・日蓮教学研究者から一般聴講者まで含めて、実に60名近くに及んだ。
講義開始に先立ち、司会の布施学林長より挨拶と日程説明、並びに講師紹介があり、その後、西山茂理事長より挨拶を頂いた。大平先生が西山理事長に歩み寄って握手を交わされ、大きな拍手に包まれながら講義がスタートした。
講義は、前半2時間、途中休憩を30分程挟んで後半2時間と計4時間に亘り、極めてハイレヴェルで密度の濃い半日集中講座となった。
内容的には、先ず日隆教学における『観心本尊抄』の位置づけ、『観心本尊抄』全体の見方、その解釈の特色と変遷(法体二重説→法体三重説)という視点から切り込まれ、教学確立期以降の『観心本尊抄』解釈の特色として、法体三重説に立った唯一題目による成仏義、結文の重視、上行付嘱の教義の重視、上行付嘱と本尊義、三益論中心の教義、三五実説の視点、本門流通の立場の重視など、貴重な所見の数々をご教示頂いた。
また、「日隆教学の諸相と特色」として、日蓮遺文を能眼能照、天台教籍を所眼所照とする立場を貫きながら、その厖大な著作(18部274巻)、抄録・覚書が認められたこと、また、所持の法華経や著作の成立史的・主題別の分類など、先生の長年の研鑽成果を次々と明快に披露してくださった。
次いで、日隆教学の方法論については、『観心本尊抄』を頂点とし、就中、結文を一部の肝心と捉える立場が根底に置かれ、日蓮遺文と原始天台の捉え方に外宜迹面と内鑑本密の二面を洞察し、原始天台と日本中古天台の相違性や日蓮遺文と日本中古天台の相違性についても細かな検討を加えたところに特徴を見出せること、また、日隆の教学方法論の由来を解説され、中でも、日蓮義を始覚義・相待妙偏重と批判する天台宗側に抗して打ち出されたところに日隆教学を読み解く鍵があると指摘されたのは大変興味深かった。
更に、今回、大平先生は、「日隆教学の諸問題と特色」として、当学林からのリクエストに応えてくださる形で、「本門八品正意論」「法体二重説と法体三重説」「四重興廃説」「教判と本迹」「教主釈尊と顕本論」の項目を立て、一々について多面的に概説してくださった。そして、総括的に日隆教学の全体系や教観論上の構図、あるいは教学樹立上の根底にある末法下機の直視という観点について、貴重な知見を得ることができた。
講義を終えるにあたり、「宗学」の意義を「宗(むね)とすべき学」と語られ、聴講者全員に宗学する者の有り様について再確認を求められた。大平先生の説得力ある言葉に、思いを新たにした聴講者が多かったのではないだろうか。
総じて、聴講者から、敬虔・真摯な求道者としての大平先生のご姿勢、そして温厚誠実なお人柄に魅せられた旨の感想が多く、スタッフ一同、素晴らしい半日集中講座を開設させて頂けたことを大変誇らしく思っている。
大平先生、誠に有難うございました。(スタッフ)