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令和2年4月21日(火)より、菊地大樹先生による法華コモンズ仏教学林2020年度後期【歴史から考える日本仏教⑤】〈承久の乱から考える日本仏教〉〈全4回〉が開始されました。
法華コモンズ仏教学林は、平成28年(2016)開校以来、講師と受講者との対面式のスタイルで全ての講義が執り行われてきましたが、コロナ禍により緊急事態宣言が発令され、これまで同様の講座開設は難しい状況になりました。そうした中、菊地先生は、【歴史から考える日本仏教④】最終講をご自宅で撮影してくださり、広く動画配信させて頂ける運びとなりました。本講座の第1講・第2講・補講も、菊地先生のご厚意なくして成し得なかった、Zoomの機能を用いた動画配信です。

本講座での菊地先生の視点は、「近年、内乱・戦争を通じて歴史を考えることが1つのブームを形成している。戦乱は、政治勢力の衝突という事件の表面的な経過に留まらず、飢饉や流通、さらには宗教にまで種々の影響を及ぼし、ダイナミックな歴史の転換を生き生きと伝えてくれる。戦乱の時代である中世において、南北朝の内乱や享徳・応仁の乱と並び画期をなすのが承久の乱であり、それは、鎌倉幕府を打倒すべく後鳥羽上皇が挙兵したことで人口に膾炙している。この講義では、背景となる、鎌倉時代の朝幕関係や、後鳥羽上皇がよって立つ院政の仕組みについて、今日の歴史学研究の最先端の所見を見据えながら講義を進めていく。また、承久の乱の翌年に誕生した日蓮聖人にとって終生、この乱は宗教的思惟を深める際の重要な意味を有つものであった。しかのみならず、日蓮聖人が批判した専修念仏教団にも、承久の乱による後鳥羽上皇の敗北は念仏弾圧の報いと考えた人々がいたことを指摘できる。乱後の新たな体制の中で、朝廷や幕府はこうした様々な宗教運動と対峙した。また、顕密僧を代表する慈円(1155~1225)も『愚管抄』の執筆によって後鳥羽の挙兵の制止を試みるも叶わず、晩年、自身の宗教的確信が大きく揺り動かされていく。日蓮聖人の承久の乱に対する考察は、このような顕密の宗教への批判ともなって現われたと見られる。本講義では、以上のような切り口から、承久の乱と鎌倉仏教、そして日本中世の歴史へと展望を広げて行く契機を摑み取ることを目的とする」というものであります。
菊地先生は、全体を、「院政と承久の乱への道」「承久の乱と鎌倉武士」「承久の乱と鎌倉仏教」「乱後の時代をみわたす」という、大きく4つのテーマに分けて講じるカリキュラムを編成されました(以上、シラバス取意)。

菊地先生が、「承久の乱」研究に関する昨今の諸説を全て踏まえた上で、受講準備テキストとして指定されたのは次の2書です。

◎基本テキスト
坂井孝一著『承久の乱―真の「武者の世」を告げる大乱』
(中央公論新社、2018年)

◎サブテキスト
本郷恵子著『京・鎌倉 ふたつの王権』 (『全集 日本の歴史』 6)
(小学館、2008年)

今回第1講の大きなテーマは「院政と承久の乱への道」。そこでは、「院政の成立と展開」について、(1)院政とは何か、(2)院政の展開、(3)院政期文化から鎌倉仏教へ─という3つの角度から講義が進められました。

「承久の乱」を精確に理解するためには、院政について、その発生や、独特な家父長的性格への理解、また、上皇・天皇・摂関家のあり方の基本や実態、更に、三者の力関係の移り変わりについて充分に理解する必要があること。時代区分上の院政期の位置づけについても、視点の持ち方によって異なりが生じること─など、重要なポイントが次々と示され、今回は院政の成立からおよそ保元の乱(鳥羽院政期)までの歴史を多面的に講じてくださいました。
驚くほど瞬く間に2時間が過ぎ去りました。

今、講義内容一部紹介の意味で、以下、日蓮聖人の時代を見据えた上での、当時の仏教界に関する重要事項について、菊地先生よりご教示頂いたことを少しく列挙させて頂きます。

先ず、「白河院政期の仏教政策の特色」として、
・荘園制を通じて地方寺社と中央権門との本末関係の構築に介入したこと。
・法勝寺など院御願寺を建立し、仏事を興行して論義法会(学解)を中心とする僧侶の出世階梯(→僧綱)をコントロールしたこと。
──が挙げられ、これらにより、学侶層を中心とする中世寺院構造の成立が促された(堂衆層〈山林修行・苦行などを修す〉)=実践行の周縁化)ところに特徴が見出せる、ということ。

また、「鳥羽院政期の仏教政策の特色」として、
・寺院社会で周縁化された、実践修行者としての堂衆層の集団化と権門寺院への結集がなされたこと。
・聖や受領層の活動を介して、地方寺院を積極的に体制に取り込んだこと。
──を挙げられ、このような循環構造の創出によって、中心と周縁の二元的分立を統合しようとする努力が見られる、ということ。

更に、「院政期文化から鎌倉期へ」の仏教思想の展開を大観すると、院政期においては、古代末期における価値観が動揺し、流動的な社会の中で新たな文化や宗教が胎動したこと。その中で、終末論的な末法観が台頭し、一方、末法観の克服や無化という傾向も現出。あるいは、苦行や念仏・写経などの数量信仰が流行を見せながらも、本覚思想(あるがまま主義・修行不要論)が台頭することともなり、「宗教社会における両極化・文節化(分裂の危機)の様相」がその特色として見出せる、ということ。

そして、「思想的系譜論とその否定」という項目を立てられ、その中で、浄土教や密教の進展の様相や、鎌倉新仏教論・頂点的思想家論・思想的系譜論についても細説してくださいました。

総じて、いつもながらに、現在の歴史学の最先端の知見と菊地先生のご所見を交えながら、且つ、初心者にも配慮した語り口で、「知の世界の醍醐味ここにあり」と感じ入った次第です。

この第1講は1ヶ月間アクセス可能な動画配信です。この時代を掘り下げて知りたい方、日蓮聖人についての理解を深めたい方には、是非とも受講をお薦め致します。大変貴重な機会です。

次回第2講の動画配信開始は、5月19日(火)が予定されております。(スタッフ)

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