2021年11月27日(土曜)午後4時30分より、令和3年度「法華仏教講座」第2回講義が木村中一先生を講師にお招きして行われました。今回の講座はオンラインで行われ、Zoomによる動画を生配信し、会員の方々が各自オンラインで受講しました。
講義のテーマは「近世における日蓮聖人遺文の編纂を考える」。はじめに木村先生は日蓮聖人滅後、日蓮聖人の書かれたご遺文が、日蓮聖人の弟子檀越を中心にどのように継承されてきたのか。その継承の歴史を「遺文継承史」と称し、近世に於ける「編年体御書目録」の成立を、遺文継承史上に於ける新局面と把捉。その上で「編年体遺文目録」の種類と受容、後世に与えた影響などについて詳しくご説明くださいました。以下、内容について要点を絞りご紹介致します。
1) 日蓮遺文の歴史的展開 ~編纂を中心に~
日蓮遺文に関する先行研究より日蓮遺文の研究史として、日蓮聖人滅後より現代まで七〇〇年の期間を想定し、二期に分け、前期「日蓮遺文蒐集格護の時代」四〇〇年、後期「日蓮遺文編纂の時代」三〇〇年とする。なお、今回は後期三〇〇年にスポットをあてる。
2) 編年体御書目録の諸本
代表的な編年体御書目録として4点の資料を挙げる。
①『御書新目録』―中山法華経寺日奥により貞享3年(1686)編纂。日蓮遺文の編年化の嚆矢。『録内御書』収録遺文148編をはじめて編年体に編纂した。『同書』は刊行されなかったため世間に流布することはなかったが、日蓮遺文の編年体目録の先駆として高く評価されている。正本は無いが立正大学に写本が現存し、『昭和定本』所収『御書新目録』の底本。
②『境妙庵御書目録』―玉沢妙法華寺33世境持院日通により明和7年(1770)編纂。立教開宗以後の日蓮遺文364編を編年化。現存する7点の諸本を第一稿~第三稿に分類。このうち立正大学図書館蔵『日董本境妙庵目録』が『昭和定本』所収『境妙庵御書目録』の底本。
③『新撰祖書目次』―建立日諦・玄得日耆の共同編纂。日蓮聖人の五百遠忌慶讃として日蓮聖人顕彰のために作成され、安永8年(1779)刊行された。日蓮遺文355編を編年化。日蓮教団史上はじめて刊行された日蓮遺文目録。『新撰祖書目次』(安永8年版本)、『弘化改訂祖書目次』(弘化3年(1846)改刻版本)、『常忍寺祖書目次』(写本)がある。このうち『弘化改訂祖書目次』が『昭和定本』所収『新撰祖書目次』の底本。
④『新撰改正祖書目次』―編纂者智英日明は尾張国の人。諸国を回り日蓮遺文を蒐集、遺文の校合・編纂に努めて『新撰御書』五十巻を編集したが、校正の途中で病に倒れ遷化したとされる。本書は在家日蓮信奉者、小川泰堂『高祖遺文録』の底本。
3) 編年体御書目録が与えた影響の一例
勇猛院日麑は、日奥『御書新目録』、日諦・日耆『新撰祖書目次』の記述をもとに『祖書編輯考』を著し、『録内御書』の六老僧による日蓮聖人一周忌成立説、『録外御書』の日蓮聖人三回忌成立説を、それぞれ十項目を立てて否定している。すなわち日麑は「編年体御書目録」の記述をもとに、『録内御書』『録外御書』の成立説について批判的に考察を加え、従来の説を斥けた。日蓮遺文編纂史上における新たな局面の到来を示した一例といえる。
4) 遺文編纂の新局面・在家者の遺文編纂と編年体御書集
現在の福島県に生まれ真言宗徒であった深見要言は、縁あって法華信仰に接し、多くの日蓮聖人遺文を出版している。なかでも『御書五大部』所収の広本『立正安国論』は、深見要言によってはじめて刊行された。
相模の国藤沢に医師の子として生まれた小川泰堂は、江戸で医師を開業、古本屋でたまたま『録内御書』を一読して、それまでの時宗信仰を捨てて日蓮信奉者として歩み始める。のちに智英日明『新撰改正祖書目次』50巻の存在を知り、『同書』を底本にして『高祖遺文録』を編集した。小川泰堂『高祖遺文録』は、『録内御書』『録外御書』『他受用御書』など、多くの日蓮遺文を年代ごとに修正、編集した編年体遺文集であることが特徴。『高祖遺文録』には、草稿本が3点、木版本、活字本がそれぞれ1点現存し、その他草稿本が数種現存する。
5) むすびにかえて
日蓮聖人滅後、日蓮遺文は弟子檀越により厳重に格護された。日蓮聖人の有力な檀越であった富木日常『常師目録』の条々からも、日蓮遺文などの聖教の取り扱いに対する厳しさが窺い知れる。その後日蓮遺文は写本・刊本により継承され、約四〇〇年が経過し近世に至ると、日蓮遺文編纂の時代を迎える。それまで世間に流布していた日蓮遺文集成として『録内御書』『録外御書』などがあるが、『録内御書』は主要遺文(五大部)を始めに収録し、教義的重要度の高いものから順次収録されている。つまり、それまでの日蓮遺文集では、日蓮聖人の生涯や思想を年代順に把捉することは困難であった。近世に至り「編年体御書目録」が成立し、日蓮遺文が成立年代順に編集されたことによって、日蓮遺文の文言を通じて日蓮聖人の生涯や思想を「追体験」することが可能となった。すなわち日蓮遺文の歴史的展開としての「日蓮遺文の編年化」は、日蓮遺文継承史上における新たな局面を迎えたのである。
木村先生は豊富な資料をもとに、一つ一つ丁寧且つ詳細にご説明くださいました。講義後の質疑応答では日蓮遺文に関して書誌学的な観点、歴史学的な観点から、それぞれご質問がありました。木村先生は一人一人の質問に丁寧にご回答くださいました。誠にありがとうございました。
次回の第3回法華仏教講座は、12月4日(土曜)午後4時30分より、常円寺祖師堂3階会議室に於いて対面講座を予定しております。なお、コロナウイルス感染状況等によって、オンライン講座に切り替わる場合がございます。会場、時間等の最新情報は、法華コモンズホームページよりご確認下さい。ご聴講お待ちしております。(スタッフ)