法華仏教講座第3回となる土倉宏先生の「安然における円密一致思想の特徴」が、去る6月28日(土)に開催されました。土倉先生は、本学林の前身となる本化ネットワーク研究会でも第65回に「日蓮と安然」のテーマでご登壇頂きました。今回は、日本天台の台密教学の大成者である安然の「円密一致」思想をテーマにしてのご講義となりました。円密一致思想とは、法華経(円教)と大日経等(密教)が同等で一致するという台密独自の教学ですが、この難解なテーマを5つの項目を立てて詳しく解説されました。
第1項「安然・五教説における円密相違と円密一致の事例」では、安然の『菩提心義抄』を引き、化法四教の蔵・通・別・円に密(密教)を加えての五教の視点から円教と密教の相違を観ると共に、円教の止観行と真言の三密行の意義を同等として「円密一致」を観ていきます。そして第2項「⑧文における円密一致(事理同、理同、初聞以上・初心以上、等の検討)では、『仏性論』や『大乗起信論』の「心真如門と心消滅門」を導入して、第2項の引用文を詳細に解明します。その上で第3項「円教義の「心真如門・心消滅門」を本質とした円密一致の発展系―㉖文を中心に(八識、九識、十識)」では、安然が円密義として「九識」を立て、『釈摩訶衍論』を参照して「清浄本覚の一心一心識として第十識」を立てる次第を説明されました。
そして第4項「伝法聖者闕略義と円密一致(初住以上―事理倶密の堂)」では、第1項での円密一致の理屈(『法華経』には三密行が書かれていないが、円の止観行と密の三密行は同じ)とは別の理屈で「伝法聖者闕略義」という考えが示されます。もともと『法華経』には三密行が書かれてたのだが、それ(法)を伝えた聖者がその三密行(義)の箇所を欠略させた(書き落した)という考え方です。最後の第5項「安然と日蓮」では、この安然の「伝法聖者闕略義」的発想が日蓮の「文底の一念三千」の考え方に影響を与えているとして、『註法華経』上巻に『菩提心義抄』を引いている箇所を示すなど、安然の円密一致思想にたいする日蓮の関心の所在を論じて、充実した講義を終了されました。
次回の第4回法華仏教講座は、7月5日(土)で講師は坂井法曄先生、「千葉一族の信仰と富木常忍の周辺」の講題で御講義いただきます。皆さん、ぜひご聴講のほど宜しくお願いいたします。 (担当スタッフ)