令和7年6月11日(水)、末木文美士先生による講座「仏教哲学再考②−『大乗起信論』を手掛かりにⅣ−」の第15回目が開催された。前回に引き続き、「空海と『釈摩訶衍論』」を主題にした講義となった。
はじめに先生は、「空海の『大乗起信論』理解は、『釈摩訶衍論』(以下『釈論』)を通して読まれたものであり、如来蔵説が基になっているわけではない。むしろそれを乗り越えようとしているため、『釈論』を中心に考えなければならない」と指摘された。さらに、松本史郎氏(『縁起と空』大蔵出版、1989、67頁)の基体説(超越的基体が諸法=現象を生む)と縁起説(超越的基体を否定、諸法=現象の時間的縁起のみ在る)の図式を用いて、その縁起説を正当とする初期仏教の理解を評価しつつ、「日本仏教にみられる基体説の理解を深めることも重要だ」と述べ、「空海はその超越的な基体を不二摩訶衍と捉えて、さらにその先にある世界を明らかにしようとしていた」と説明された。
続けて、永井晋氏の『顕現しないものの現象学―生命・文字・想像界』(ぷねうま舎、2025、149頁)の一即多を三層構造で示す図(①顕現しないもの=一、②その表れ=多・中間界、③知覚可能な地平世界)を参考にして、地平的世界(天地・被造物)→想像力の働きによる多様なイメージ→唯一の実在(神・生命・他者)そのもの、という過程を見る現象学の捉え方は、唯一の実在そのものを「不二摩訶衍」として、それが「法身説法」として説かれるとする『釈論』と近しい考え方であることを示された。
最後に、空海『弁顕密二教論』に見られる『釈論』の引用を解読され、講義終了となった。
次回も引き続き、空海の思想に焦点をあてた講義となります。末木先生の最先端な知識を拝聴できる貴重な機会になることは確実です。先生は聴講者に対し、分かりやすく解説して下さいます。新規聴講も問題ありません。皆様の聴講申し込みをお待ちしております。なお、本講座はリモート開催となっており、講義動画も受講者に配信し、期間内であれば何度でも見ることが可能です。詳細につきましては、「法華コモンズ」ホームページからご確認ください。(スタッフ)