令和7年2月22日(土)、新宿・常圓寺様の祖師堂地階ホールを会場とし、興風談所所員の山上弘道先生による、『「不軽菩薩の利益」について』のご講義が、Zoomによる同時実況の形式で開催された。
本講義は、当学林理事長・西山茂先生が四菩薩プロジェクトに基づいて企画された、全4回の連続講座「現代の法華菩薩道とは何か」の第4回目(最終回)の講座となる。
当日は、本学林のスタッフ・西山明仁先生が勤められ、理事長・学林長の挨拶の後、Ⅰ時間40分に及ぶご講義を頂き、10分程の休憩を挟んだ後、約50分にわたる活発な質疑応答が執り行われた。
山上先生は、一昨年に『日蓮遺文解題集成』を上梓された。今回は、ご自身の大著で提示された第Ⅰ類真撰遺文から、常不軽菩薩に触れた四十九遺文を取り上げられ、それらを吟味しながら、日蓮の弘通のあり方を考究され、「現代の法華菩薩道のあり方」を提示された。
日蓮聖人は、文応元年から生涯一貫して、「不軽菩薩の利益」を重視した菩薩のあり方を重要視され、それは、本化地涌菩薩への付嘱や、殊に上行菩薩所伝の題目が重んじられた教学完成期においても、全く変わることがない、生涯を貫く重要な姿勢であったという。
「不軽菩薩の利益」とは、法華経『常不軽菩薩品第二十』に説示されている、不軽菩薩の但行礼拝のことである。不軽菩薩はすべての人々に対し「我深敬汝等、不敢軽慢、所以者何、汝等皆行菩薩道、当得作仏(われ、深く汝等を敬う。 敢えて軽慢せず。所以はいかん。汝等みな菩薩の道を行じて、まさに作仏することを得べし)」との(経文の原漢文)二十四字を唱えて礼拝し、その結果、杖木瓦石の難を蒙ることとなった。その際、不軽菩薩を難じた者達は、(堕極を経ることとなるも、)未来得脱のための逆縁を得る、というものである。
日蓮聖人は、この不軽菩薩の弘通と、南無妙法蓮華経の題目を末法に弘通する自身の姿とを、重ね合わせられている。そして、この不軽菩薩の利益を摂受と解すか折伏と解すかはひとまず置いて、不軽菩薩の利益が日蓮の弘教の規範(逆縁下種)であり、弟子檀越に対してもその実践を指示し、また遺命したことが、今日の我々にとって重要性を有つと論じられた。
山上先生は、これまでの日蓮門下における、江戸時代の摂受主義、明治時代以降の覇権主義的な折伏主義は、日蓮が目指した弘経の方軌と径庭が存すると指摘された。その上で、世界の宗教・思想・政治的イデオロギー等、その殆んどに覇権主義的傾向を見出せるのに対し、「不軽菩薩の利益」を基調とした日蓮のあり方は、非覇権主義であり、今日の人類の危機を回避させる「現代における法華菩薩道」に他ならない、と講義を結ばれた。
当日は、仏教学者・宗教学者を含めた多くの聴講があり、質疑応答でも山上先生は質問の一つひとつに丁寧に答えられ、先生の誠実さと暖かさを直に感じ取ることができる、貴重な機会となった。(スタッフ)