令和6年10月2日(水)、末木文美士先生による講座「仏教哲学再考②−『大乗起信論』を手掛かりにⅡ−」が開催された。本講座は、全十六回を予定している。第9回目となる今回からは、『釈摩訶衍論』(以下『釈論』)を主題においた講義となる。
はじめに、『起信論』の展開の諸相を再確認し、『釈論』の先行研究を提示された。『釈論』の成立問題として、関悠倫「『釈摩訶衍論』の成立と武則天」(東洋学研究58、2021)を取り上げ、その主張に対する自身の見解を述べられた。
次に、『釈論』成立当時の東アジア仏教圏において独自に展開した契丹の仏教に焦点をあてた。宋が儒教中心に転換しながら、仏教の主流が臨済系の禅によって占められていく中で、契丹は唐の時代の融合的、総合的な仏教の立場を継承し、顕(華厳)・密・禅の併修を主流として、『釈論』を重視する、といった特徴があることを示された(『禅の中世』、2022、臨川書店、106頁参照)。
そして、早川道雄「『釈摩訶衍論』の新研究」(ノンブル社、2019)を参考にして、『釈論』の中心思想である不二摩訶衍法と三十二法について解説した。『釈論』は、『起信論』に基づきつつも、一心・二門・三大を同等視していること、不二摩訶衍は三十二門を完全に超える果分不可説として隔絶していること、具体的な実践として様々な呪(特殊文字)が使われていること、といった新説を大胆に展開している部分を確認した。
最後に、杲宝(1306-62)の『宝冊鈔 8』で示される、『釈論』の真偽について論じている箇所を説明し、講義終了となった。今回の講義は、『釈論』を理解する上で土台となる講義内容であった。
次回は11月6日(水)となります。末木先生は聴講者に対し、分かりやすく解説して下さいます。新規聴講も問題ありません。皆様の聴講申し込みをお待ちしております。なお、本講座はリモート開催となっており、講義動画も受講者に配信し、期間内であれば何度でも見ることが可能です。詳細につきましては、「法華コモンズ」ホームページからご確認ください。(スタッフ)