令和5年7月29日(土)午後4時30分~、新宿・常圓寺祖師堂地階ホールを対面講義の会場として、立正大学教授で当学林教学委員の三輪是法先生による「一念三千の現代的解釈」の講義が、Zoomオンライン聴講もできるハイブリッド型の講義として執り行われた。
社会学・文学・生命科学・哲学から見た、「心」と「世界」の関係性を概観され、仏教と心の問題、仏教と精神分析の問題を検討する上での課題を指摘。「世界」に発散する「心」、「心」に収束する「世界」という焦点を提示され、「一念三千」を開示する『摩訶止観』巻第5第7正修止観章について、忠実な原義に基づきながら解説された。
「一念三千」は、天台大師智顗(538~597)の講説書『摩訶止観』巻第5第7正修止観章で開示された、法華仏教史上の最重要法門である。それは「不可思議なる対象として人間の心を表した言葉で、三千という数字は法華経の十如是(現象界を形成する構成要因と原理)と 地獄界から仏界までの十界、そして五蘊世間・衆生世間・国土世間の三種世間の乗数である。換言すると、 我々の心は本来具有している聖者を含めた十種の善悪の人格的要因(十界)と現象界(十如是)、さらに 環境的外部要因を含めた存在の差異性(三種世間)の関係として成り立っている。
三輪先生は、この構図が、心に「他者」 が存在していることを示していることに着眼。講義では、人間の精神(実体視される心ではなく、関係性の中から誘発する精神というべきか)に焦点を当てた一念三千という理論を、精神分析が提唱する三つの視点、自我論と主体論、そして欲望論に基づいて考察を加え、『摩訶止観』と精神分析が示す人間存在と心について詳細に検討を加えられた。
法華教学の重要法門を、現代的に掘り下げて解明しようとする素晴らしい試みに、参加者一同、大変感銘を受けた。また、プロジェクタを用いた明快なプレゼンテーションであった。
当日は、仏教思想研究、日蓮教学研究の第一線で活躍する研究者、先生が大学で指導する学など、多くの聴講者が集い、講義終了後の受講者の質問にも明快かつ詳細に解答したくださった。講義終了後、聴講者から先生へ大きな拍手が送られた。(スタッフ)