第 4 講 世俗世界に現れた偽文書
中世の偽文書は、一般的な記述方法では語り得ない事柄を語るために、偽書・偽文書の記述で訴えている。世俗では語れるものだけを語ればよく、宗教の世界では通常の言語を超えてしまうような事柄を自身が真正でキャッチしたものを他者に伝える、語り得ぬものへ挑んでいく方法として用いられた。そこには通常の認識からはみ出る〝両義性〟を有している。また、日常や言語、秩序を超越した事柄を感得した時に〝超越性〟が求められ、偽書・偽文書が生まれた。
世俗的な偽文書は、世俗の支配秩序の中で作れているので両義性はあってはならない。国家を頂点とする中でも、多元的な各集団内だけの秩序に適合する論理や文書がある。社会変革がなされた時に、既存の秩序とは違う社会秩序が生まれる。
中世法制は多元的な秩序で構成されている。「頼基陳状」は建治三年、訴えられた四条頼基被告人の原告人への反論状。幕府に訴えたものではなく、四条氏が仕えていた名越流北条氏の主人に申し開きをするための陳状書。
中世で都市といえるのは鎌倉と京都、太宰府くらいで、他諸国の守護所などにあるが、かなりちっぽけで常設の店舗はまれだった。祭礼がある時や月3回ほど人が集まる要衝や、寺社の門前に市が立つ。各地を遍歴する行商「振り売(連雀)」が一般的で、商人と山伏の関係が重要。その商人と山伏に市の作法などが記された「連雀之大事」といわれる偽文書群があり、「商人の巻物」といわれている。商人の巻物を示すことで市での商売ができる許可証的機能があった。市立は広義の宗教的儀礼なので山伏が介在する。近世には権力構造が変わり、中世的商人のあり方が否定された。
それに対して職人の偽文書は近世にも受け継がれる。網野善彦が歴史学と民俗学のはざまで「排除された偽文書を学問的研究の対象とし、その成立過程・機能を究明」することを試み「偽文書学」の基礎を築いた。偽文書は過去の由緒を継承しながら、時代状況に応じて成立継承された。(担当スタップ)