去る2022年2月15日(火)午後6時半より、今期最後の菊地先生連続講座「裏から読む鎌倉時代—日蓮遺文紙背文書の世界—」の第5講「日蓮をとりまく百姓の世界」が開催されました。今回は、網野義彦氏が明らかにした「百姓は農民ではない」という見解を踏まえて、戦後歴史学における「鎌倉新仏教観」と「東国農民論」を初めに説明されました。特に鎌倉時代の東国農民の実態を知るには「日蓮遺文紙背文書」は格好の史料であり、第4講でふれた都市生活を乗り切ろうとする武士・領主階級のストレスが、過酷な収奪的支配となって百姓に襲い掛かり、地域社会が発展の恩恵にあずかれなかった東国百姓の状況が、紙背文書からうかがえます。紙背文書には、姪を質に入れて自らが下人に転落した事例や次々に質草として家族を差し押さえられた百姓の事例が見られると共に、多年の奉公により債務を返済して下人身分から離脱して百姓身分に戻った例も記されています。湯浅治久氏は東国の後進性について、14世紀に入りようやく在地の百姓同士の連帯が東国にも芽生え、その交流の場として寺院があったとして、「熱原法難」の例を挙げています。まとめとして、今回の講義では千葉氏の権力を支えていたものを家政・宗教・金融・百姓の観点から明らかにしていきましたが、その中で日蓮が救済の対象として見すえていたものとは何だったのかとの設問を残して、菊地先生は本講義を終了しました。
「歴史から考える日本仏教⓽」となる来期4月からは、「法華持経者の思想的系譜」を新たなテーマにして5回の講義が始まります。どうぞ皆さま、受講申込のほど宜しくお願いいたします。 (担当スタッフ)