講座「日蓮と蒙古襲来の時代」第3講オンライン講座

講座「日蓮と蒙古襲来の時代」第3講オンライン講座
2020年12月22日 commons

2020年12月22日(火)午後6時30分より、菊地先生の2020年度後期講座【歴史から考える日本仏教⑥】〈日蓮と蒙古襲来の時代〉第3講「変革と内乱の時代」が行われました。最終講座となる今回の第3講ですが、新型コロナウイルスは依然として猛威をふるっており、感染予防のため、これまでに引き続きZoomによる動画を生配信し、会員の方々が各自オンラインで受講しました。

これまでの第1回・第2回講座では、蒙古襲来の前後の状況について、日本を含む東アジア全体の社会情勢を視野に入れて確認、その上で日蓮の思想が蒙古襲来を通じてどのように推移していったのか、日蓮の遺文を新たな視点から読み解きながら明解にご説明いただきました。

第3講となる本講座では、弘安から晩年に至るまでの日蓮の状況と思想について、また日蓮にとっての蒙古襲来とは何だったのか、蒙古襲来後の中世社会の状況について丁寧にご説明いただきました。以下内容について要点を絞りご紹介致します。

はじめに

講座の冒頭にて菊地先生は次のように指摘されました。これまでの過去2回の講座の視座と同様に、蒙古襲来を戦史として見るのではなく、周囲の社会情勢と併せながら広く見ていく必要がある。また良くも悪くも多方面に影響を与えてきた、近代の日蓮主義から解き放たなくてはならない。そのためには、近代から続いている従来の研究を批判的に見直す必要がある。

1.弘安の役と晩年の日蓮

弘安の役が勃発した当時の日蓮の思想と行動について、弘安四年六月十六日付の日蓮遺文『小蒙古御書』を紹介。日蓮が蒙古襲来の一報を重要な軍事機密と認識、弟子檀那に情報統制を敷いたことについて、日蓮が他国侵逼難・善神捨国論を喧伝するならば、弟子檀那に緘口令を敷く必要はなく、むしろ蒙古襲来の一報を利用する手もあった。と日蓮の他国侵逼難・善神捨国論に於ける従来の見解の矛盾を指摘。また日蓮と預言について、これまでの研究では、近代日蓮主義の所産である「預言」というタームを簡単に使ってしまっている傾向がある。近代的言説にもとづき、結果からさかのぼって歴史的事実を解釈した場合、同時代の人との意識にズレが生じてしまう、と指摘。

2.蒙古襲来と百王思想(2020年前期第4講補説)

過去の講座に於いてご説明があった慈円と日蓮の百王思想について、蒙古襲来を通じて再説。慈円の百王思想は、神代に定められたが故に不変であり、根本的に変化することはなく永遠に続く→現状超越的理解。日蓮の百王思想は、人間が邪法を信じれば神の誓いは破られる、現状・未来はあらかじめ超越的に決定されているわけではなく変化する→現状依存的理解。とそれぞれ対照的な思想として規定。ただし、日蓮は朝令暮改に言説を変えるのではなく、現状を鑑みながら歴史的事実・認識を神の超越性に優先させ、刻一刻と変化するシビアな社会情勢を把握し即応していた。

3.弘安の役とその後

弘安の役後に出された神領興行法により、現地の領有関係は混乱し、訴訟が頻発、地頭御家人の困窮に拍車をかけた。また『花園天皇日記』の記述から、人々の間に弘安の役後も蒙古襲来の恐怖の記憶が長く継続されたことが分かる。このような社会状況の中で幕府、寺社、朝廷はそれぞれの思惑のもとに南北朝の内乱へとつながっていく。

おわりに-南北朝の内乱へ-

最後に日蓮と蒙古襲来の時代について、ここまでの講座を総括する形で要点を抽出。その中で、日蓮は東国武士等の様々なネットワークを駆使して情報を収集し、刻々と変化する現実世界を歴史的に思考した。その上で正法である『法華経』の世界(冥)と現実の人間界(顕)に対応していた。それは慈円に見られるような夢想を通じて神仏と結んだ「冥顕」の世界とは、対照的な思想である。またその思想は、蒙古襲来による緊張関係の中で刻々と変化しており、日蓮遺文を読み解く際、その時の歴史的状況を段階的に踏まえて慎重に読み直す必要がある、と指摘。過去の研究による制約から脱するための、貴重な視座を提示してくださいました。

今回も多くの史料を引用解説し、様々な視座から詳細なご説明をいただきました。蒙古襲来における「神風」、日蓮における「預言」、イデオロギー的にぬり固められたそれぞれの史観をどう乗り越えていくのか、全3回の講座にはそのためのエッセンスが凝縮されていました。受講者の皆様それぞれに思い感ずるところがあったと思います。

講義後の質疑応答では、法華コモンズスタッフを含め6名の方から質問があり、菊地先生は一つ一つの質問に的確にご回答をくださいました。

菊地先生の本年度後期講座は今回をもちまして終了致しました。今後の詳細につきましては「法華コモンズ」ホームページよりご確認ください。(スタッフ)