去る6月8日(土)午後6時45分より岡田文弘先生の講座「仏教説話の世界」が開講されました。第三講は「鎮源『法華験記』の世界」をテーマとし、「『法華験記』の成立と背景」、「多彩な説話」という章立てで講義が進みました。
「『法華験記』の成立と背景」で先生は、『法華験記』の成立や伝本、それに至るまでの日本説話文学史を見た後、成立過程の中心である恵心僧都源信に関係する講会(勧学会、二十五三昧会、霊山院釈迦講)が情報交換の場(口承)であり、説話文献の編纂(書記文献化)においても大きな影響を与えていたことを再確認。鎮源は、『涅槃経』に説かれる雪山童子が半偈を樹石に刻み、『法華玄義』『摩訶止観』の講義が記録された例を序文に記し、自身の説話編纂活動がそれらに続くものとした。また説話編纂の中で尊格・霊的存在が夢告で因縁を伝えるという霊験譚を『日本往生極楽記』より多く採集しているところに着目。鎮源が説話編纂そのものを聖なる仏道実践と捉えていたことが画期的なことであると説明された。
「多彩な説話」で先生は、『法華験記』に収録されている「理想の持経者像の創出」、「行者対決説話」、「普賢説話」、「異類功徳譚」に関する説話をとりあげ、それぞれの説話の意図を解説された。
『法華験記』の中では、畜生をはじめとする人間以外の生き物や愚者・罪人などの存在の救済譚が多く収載されているが、本書は人間を畜生と地続きの存在とみて、無知と罪のために輪廻の中を流転し続ける存在と捉えている。そうした人間達が、法会・講会を契機として集い、互いの因縁を知り、互いに救い、救われあうという救済の世界が語られている。また鎮源が、『法華経』の仏教観を強く抱いてこうした十界互具の世界を描いていただろうことが最後に強調され、講義は終了した。
次回は最終回「日蓮聖人と説話」です。当日も受講できますので、どうぞご聴講のほどお願いいたします。(スタッフ)