講座「日本宗教史の名著を読む」第2回講座報告

講座「日本宗教史の名著を読む」第2回講座報告
2019年5月21日 commons

令和元年5月21日(火)午後6時30より、菊地先生の講座【歴史から考える日本仏教③】〈日本宗教史の名著を読む〉第2講「高木豊「持経者の宗教活動」を読む」が行われました。始めに今回精読する論文の著者である高木豊先生の経歴について、学生時代の菊地先生の目標であった高木先生に新宿の中村屋でお会いし、様々なご教示をいただいたことなど、先生ご自身のエピソードを交えてご紹介をいただきました。

本論文について菊地先生は、奈良仏教と鎌倉仏教に挟まれ評価の低かった平安仏教について、独自性と普遍性という一見相反する思想を統合し、平安・院政期仏教の独自性を検証している。それは単なる祖師(日蓮)研究ではなく、教団史・法華経文化史・鎌倉仏教史・日本中世史という広がりを持つ論文である、と指摘。また、橋川正の『日本仏教文化史の研究』(1924刊)を鎌倉時代における法華信仰研究の先駆者として位置づけた上で、思想的側面から日蓮との系譜を論じた家永三郎の『中世仏教思想史研究』(1947刊)に対して実体的側面からアプローチした川添昭二の『日蓮とその時代』(1999刊)の業績を踏まえて、平安時代における法華信仰の独自な位置づけを目指した論文である、と評価。その論法は、最初に見通しを立てるがそれは仮説に過ぎず、資料と仮説を往還しながら検証を通して進めていく、大胆かつ繊細な論述のスタイルであると説明されました。

その内容については、特に以下の点を指摘されました。1.持経者の呼称。持経者に三通りの読み方があり、当時法華経の読み方をめぐる芸能の一つとして「読経道」が確認され、「読経道」の大切なポイントに音の高低と清濁とがあった。高木先生は、かかる視点にいち早く気づく炯眼を持っていた。2.持経者と聖。『法華験記』と前後して編纂された五種の『往生伝』との関係から、聖の概念に包摂されてゆく持経者について。3.『法華験記』の持経者。寺院や別所、山林、殊に愛宕山や法然上人が修行した黒谷別所など持経者の実態について。4.院政期の持経者。臨終誦経や法華経の書写埋納など、院政期の持経者の具体的な活動について。5.持経信仰の様相。持経者共通の根本的性格である「智解の否定」や、『法華験記』において主要な三力、験力・経力・信力について、持経信仰の具体的特徴について、など。縷々解説を施しながら、本論文が全五章にわたり一貫して文献に基づいた巧みな論証方法を用いて述べられていることをご説明いただきました。

最後に、「日蓮への思想的系譜に注目しながらも、平安時代史の独自性・史料の網羅的蒐集から組み立てられた持経者論として、本論文は単なる個別研究を超えた方法論的裏付けに支えられている。ミクロ(細部・微視)とマクロ(大局・巨視)をうまく結びつけた論文である。」と結ばれて終了しました。その後の質疑応答では四人の方から質問があり、一つ一つに丁寧にお答えをいただきました。

次回は「黒田俊雄「日本宗教史上の「神道」を読む」、6月18日開講予定です。当日のみの受講も大歓迎ですので、事前にご連絡頂ければ「事前資料の論文」をお送りします。どうぞご聴講ください。(スタッフ)