講座「仏教説話の世界」第2回講座報告

講座「仏教説話の世界」第2回講座報告
2019年5月11日 commons

去る5月11(土)午後6時45分より岡田文弘先生の講座「仏教説話の世界」が開講されました。第二講は「説話文献編纂の黄金期と恵心僧都源信」をテーマとして「末法思想」と

「源信の存在」、「源信伝の脚色(神格化、物語化):鎮源『法華験記』を中心に」という章立てで講義が進みました。

「末法思想」と「源信の存在」で先生は、日本における末法思想の初出は『日本霊異記』であるが、末法思想の興隆が本格化したのは西暦千年前後とし、末法思想の導入理由として平雅行先生の論を参照しながら仏教信仰の活性化が目的であると解説されました。説話集も末法思想の影響を好機と捉えて、『三宝絵』『日本往生極楽紀』『法華験記』と民衆の仏教信仰教化を高めるため相次いで成立していくなか、成立過程の中心人物である源信の講会(勧学会、二十五三昧会、霊山院釈迦講)が情報交換の場(口承)であり、説話文献の編纂(文献化)においても大きな影響を与えていたことを明らかにされました。

「源信伝の脚色(神格化、物語化):鎮源『法華験記』を中心に」で先生は、源信没後五十年以内に成立した伝記・説話の段階で既に、超常的な現象や不思議な夢告などの逸話=神格化が見られ、その早さと必要性を強調されました。歴史上の人物としての源信と非実在の尊格として賛嘆される源信を紹介した後、源信が妙音菩薩(東から西に移動した菩薩)に擬されるところに着目し、源信の西方往生を妙音菩薩の娑婆往詣に擬えるということは、娑婆即浄土の思想が描かれていると解説されました。また、兜率天の来迎を拒否する説話をとりあげられましたが、『法華験記』には兜率昇天を拒否というニュアンスは薄く、『往生要集』の理論を踏まえ「意楽」によることを示されました。『法華経』に兜率昇天功徳が説かれているが、作者のアイディアにより、弥勒の力を使うことによって兜率昇天の功徳を極楽往生の功徳へと転換するという理論を説明され、講義は終了されました。質疑応答では、比叡山においての講会聴衆の階級、説話における人物神格化の許容範囲などの疑問に対して丁寧に説明され、充実した講義となりました。

次回は6月8日「鎮源『法華験記』の世界」です。当日も受講できますので、どうぞご聴講のほどお願いいたします。(スタッフ)