講座「仏教説話の世界」第1回講座報告

講座「仏教説話の世界」第1回講座報告
2019年4月13日 commons
去る4月13日(土)午後6時45分から、岡田文弘先生の講座「仏教説話の世界」が開講されました。第一講は「仏教説話の発生」をテーマとして、はじめに自己紹介でご自身の経歴を述べてから、「説話文学研究序説の序説」、「初期仏典における説話:ジャータカ」、「大乗経典における説話(『法華経』を一例として)」という章立てで講義が進みました。
「研究序説の序説」で先生は、まず説話文学の定義を「口承を文献化した文学形態」とされ、益田勝実氏の説話文学論を参照しながら、「口承と文字の出会いとしての説話文学」が同じく口承から文字化に至った仏教経典と成立過程が同様であることに着目。そして、「口承された説話も文字化されることによって変質した独自なものになる」という視点から仏教経典を検討して、阿含経など初期経典が口承に近いから直説(事実性)を多く含み、仏滅後の大乗経典は後代の創作となる、という通説に疑義を呈します。参照例としてアフリカのヨルバ族の口承伝説に材を取った『やし酒呑み』という小説の評価をめぐり、口承が書記されることで、失われるものまた生じるものについても論議があることを紹介し、説話文学や仏典研究においても「口承⇒書記」における変質・変化を論じる必要を力説されました。
次に、仏教説話のもととなったジャータカ(本生経)を取り上げ、その作成においては紀元前3世紀頃の既存の伝説が素材とされたこと、またジャータカと類同した説話が多く作られてアヴァダーナ(譬喩)と呼ばれる文献となり、逆にジャータカがアヴァダーナの一種として分類されるようになったことを指摘。このジャータカの多くが漢訳経典や説話集に取り入れられて、やがて民衆文芸になっていったと説明されました。
そして大乗経典における説話では、文学性が高い『法華経』の中でも特異な「常不軽菩薩」と「薬王菩薩」の話を取り上げて、それぞれの挿話が後代へどう影響したかを見ていきました。「常不軽菩薩」では、『法華験記』の六九話「基燈法師」との類同性を指摘し、また「薬王菩薩」では『アヴァダーナ物語』第一八章にある燈明供養の話を説明されて、仏教説話への導入部としての第一回を終了されました。質疑応答では、常不軽菩薩と基燈法師の話の類同性について、その根拠とされた①増益寿命②六根清浄③但行礼拝について疑問が出されてそれに丁寧に応答されるなど、充実した講義となりました。
次回の5月11日「説話文献編纂の黄金期と恵心僧都」では、いよいよ日本における仏教説話を読んでいきます。やさしい教訓話で仏教の教えを民衆に広めた「説話文学」は、日本中世仏教を学ぶ上でも必読の文献となります。当日の受講もできますので、どうぞご聴講のほどお願いいたします。                  (スタッフ)