平成30年12月15日、花野充道先生による法華仏教講座の講義が行われました。40名を超す聴講者が集まり、終了後の懇親会も大いに盛り上がりました。
12月度の講座は、花野先生が「日蓮聖人の本仏論は仏教に非ざる基体説か」と題して講義されました。まず基体説について、松本史朗先生の「縁起と空」(大蔵出版)の所説を紹介され、それは「単一な実在である基体が、多元的なdharmaを生じる」と主張する説であり、簡単に「発生論的一元論」とか「根源実在論」と定義されることもある、と述べられました。
次に日蓮聖人の『開目抄』に、
華厳経の台上十方、阿含経の小釈迦、方等・般若の、金光明経の、阿弥陀経の、大日経等の権仏等は、此の寿量の仏の天月しばらく影を大小の器にして浮かべ給ふを、諸宗の学者等近くは自宗に迷ひ、遠くは法華経の寿量品をしらず、水中の月に実月の想ひをなし、或は入りて取らんとをもひ、或は縄をつけてつなぎとどめんとす。天台云く「天月を識らず但池月を観ず」等云云。(昭定五五二頁)
とある文を挙げられ、天台教学では天月(本仏)と水月(迹仏)は本迹不思議一であるが、日蓮教学では天月(本仏)が実在の月であり、水月(迹仏)はその影に過ぎないと説くから、本迹勝劣であると述べられました。
このような『開目抄』の所説に基づいて、花野先生は、
■日蓮の本迹勝劣思想(本勝迹劣・相対差別思想)【対】智顗の本迹不思議一思想(円融相即・絶対平等思想)
という図式を示され、
- 日蓮仏教は基体説であるから、本勝迹劣の本仏だけを尊崇する。
対して智顗の大乗空思想では、本仏と迹仏は不思議一であるから、すべての仏を尊崇する。
- 日蓮仏教は基体説であるから、本尊を立てる。本仏=本尊を拝んで即身成仏する。
対して智顗の大乗空思想では、本尊を立てない。己心を観じて実相理の証得を目指す。
- 仏教思想の展開線上に顕われた常楽我浄の基体説も仏教である。
という花野先生の仮説を示されました。
続いて、近年における日蓮正宗正信会の分裂について説明され、
正信会では、川澄教学(川澄勲という人の日蓮正宗教学理解)に基づいて、「師弟子の法門」とか、「流転門と還滅門」「宗旨分と宗教分」などの新奇な論理を提示し、これこそが日蓮正宗の正統義であると主張した。それは、戒壇本尊といえども「モノ」である以上、無常を免れることはできないから、眼に見えない「内証(悟り)」こそ本尊の実体であるとして、不滅の「己心」を重視する教学である。しかし正信会において、日蓮聖人が図顕された「モノ」としての本尊は、「一体どのような意義を持つのか」についての深い考究はなされていない。
と問題提起されました。
最後に花野先生は、興風談所対日蓮正宗の論争、松戸行雄対日蓮正宗の論争、霊断師会対執行海秀の論争、己心本尊対一尊四士本尊の論争、山崎斎明対花野充道の論争などについて、簡単に説明されました。そして、今後、互いに切磋琢磨しながら、オープンな議論を通じて、日蓮聖人の教えの真実に迫っていこう、と呼びかけられ、講義を終了されました。
次回の法華仏教講座は、1月19日、石田智宏先生が「法華経の誕生をめぐって―梵語写本が示すこと」と題して講義してくださいます。当日だけの聴講も受けつけていますので、是非、ご参加ください。お待ちしています。(スタッフ)