法華仏教講座 第3講:「慶林坊日隆の『観心本尊抄』解釈について」講座報告

法華仏教講座 第3講:「慶林坊日隆の『観心本尊抄』解釈について」講座報告
2020年12月12日 commons

12月12日(土)午後4時30分〜、興隆学林専門学校学監・法華宗(本門流)株橋祐史先生を講師にお迎えし、令和2年度法華コモンズ法華仏教講座第3講「慶林坊日隆の『観心本尊抄』解釈について」が執り行われました(2時間)。当初は対面式講義をも見据えていましたが、コロナ禍の状況から、Zoomによるオンライン実況でのご講義をお願いすることとなりました。

Zoom開催であるにも関わらず、当日は本門流様の関係者をはじめ多くの受講者に入室いただき、大変盛会となりました。

今回、株橋先生は、講題に即し、御師範・株橋日涌先生や大平宏龍先生のご研究を承けてご自身の立場を示す形で、室町時代を代表する勝劣派の学匠・慶林坊日隆師(1385~1464、以下、隆師)の『観心本尊抄』理解を総括的且つ明快にご教示くださいました。

先ず、隆師は、日蓮遺文中、『観心本尊抄』を「総の肝要書」と位置づけ、同抄には、滅後末法衆生の下種を眼目として本門八品の経意と末法衆生のための上行付嘱の本尊が説かれ、本仏釈尊が本門八品を説き久遠下種の南無妙法蓮華経を上行菩薩に付嘱したところに重要性があると論じられていることをご教授頂きました。

その上で、『御書文段集』第五巻(尼崎本興寺蔵)の第一巻(日信筆)に収められる隆師の『観心本尊抄文段』や、株橋日涌先生の大著『観心本尊抄講義』に基づいて、『観心本尊抄』の大綱を示してくださいました。

すなわち、『観心本尊抄』全体を3段(第1段=『定遺』702頁L3~712頁L8、第2段=同712頁L8~720頁L13、第3段=同720頁L13以下)に分かち、第1段は第2段の序説として本門総名南無妙法蓮華経の所摂である別体の本門事具一念三千の解説に力点が置かれ、第2段は、滅後末法に流布すべき本門本尊の正体として、別体の事具一念三千を能摂総持せる南無妙法蓮華経を正顕し、この本尊を滅後末法に建立すべきことを主張。第3段は、総じて別体たる事具一念三千の法体を総名南無妙法蓮華経に摂在し、これを末法悪世の衆生の正行とすべきことを結した一部総結の文に当たると解していることが示されました。

その際、株橋先生が特に力説されたのは、隆師における理具と事具・事行、本迹・題目の間の能摂・所摂の関係性の論じ方で、その見方には〈隆師における教学形成期の法体二重説から教学完成期の法体三重説への展開〉という見落とせない重要な視点があることを近時、大平先生が指摘されたこと。そして、そのことを基に、迹門理具三千→本門事具三千→総名題目の能所が論じられ、総名=末法相応事行観心、即ち末法の正行の大法たる能摂総持の南無妙法蓮華経を顕すと見るところに隆師の『観心本尊抄』理解の枢要があると論じてくださいました。

その後、法種・仏種のことや、本門事具三千における種脱の問題、本門八品上行要付本尊の義証と文証と現証について、また、『観心本尊抄』での本門八品を示す局面、更に、一品二半と本門八品の問題や法界三段解釈、日隆師の『観心本尊抄』結文(「不識一念三千者……」)重視など、重要な問題を明快に論じてくださいました。

特に、法界三段の解釈において「本門流通教弥実位弥下の意」を観取し、「所謂一往見之時以久種(中略)登等妙」(『定遺』715頁)を「且く八品と一品二半とを相対して、脱を以て種に還し八品に属して末法流化を招く」と解釈。「在世之本門末法之初一同純円(中略)但題目五字」(『定遺』715頁)を「経旨を解せんが為に還って相対を以て、在世と滅後末法と、正宗と流通と、八品と一品二半と、題目と一念三千の妙理と、種と脱と、名字と住上と、聖者と悪人と、信と証とを結成す」と隆師が解釈していることの重要性を指摘されました。

講義全体を通して、株橋先生は、恰も『観心本尊抄』全文を暗誦できるのではないかとさえ思われるような語り口で、明快さと共に大変な迫力を感じた次第です。

貴重なご所見の数々をご教示くださいました株橋先生、誠に有難うございました。

次回の法華仏教講座は、令和3年1月23日㈯、村上東俊先生が「釈尊の聖地から仏教の足跡を辿る―ゆかりの地を訪ねて分かったこと―」の題でご講義くださいます。当日だけの聴講も受けつけていますので、是非、ご参加ください。お待ちしています。(スタッフ)