講座「日本宗教史の名著を読む」第1回講座報告

講座「日本宗教史の名著を読む」第1回講座報告
2019年4月16日 commons

菊地大樹先生の連続講座シリーズ「歴史から考える日本仏教」は、第一期が「山の宗教」、第二期が「顕密仏教」と話題のテーマを取り上げながら、緻密で斬新な講義によって日本仏教のあり方を解き明かして来られました。第三期の「日本宗教史の名著を読む」は、古代から現代までを論じた歴史学の六篇の代表的論文を精読し、文字通り日本仏教を歴史から考えるという画期的な試みとなります。
スタートとなる4月16日の第1講では「「古代末期における価値観の変動」を読む」と題して、大隅和雄先生の論考を精読しました。講義ではまず「学術論文を読む/書く」ための心得を明かされました。論文において書くと読むは一体で、①フレームを示す/掴む、②根拠を示す/見つける、③批判的に理解する、という3つの作業によって書く/読むが深まります。ことに、③の批判的理解とは批評や評価を含むcritiqueの意味で、その批評・批判は公的な共有の場(=コモンズ)に開かれていることが前提です。それにより批判による互酬性・互恵性が確保されるのです。また書評を書く(つもりで読む)ことが①~③の作業にもなるとの秘訣もご教授頂きました。そして本論文の解読においても、この3つの作業に沿っての講義が進みました。
まず本論文の「フレーム」として、古代末期から中世に入る期間に律令的な価値体系の流動化が起こり、徐々に解体していく中で、体制の外にある私的なものや土着的なものが発見されて、新たな価値観となっていった、という流れが確認されます。具体的には、律令的な体系性をもった漢才の「類聚」から、非体系的で収集的な和才の「集成」へと移行していった、摂関期から院政期における価値観の流動化と崩壊の様子が論じられていきます。
その「根拠」となる資料としては、「僧尼令」や『寛平御遺誡』、『和名類聚章』、『台記』、『明衡往来』、そして和文によってしか表現できないものとして発見された仮名法語の「一枚起請文」(法然)が挙げられ、順に読んでいきました。そこで見えてくるのは、摂関期の律令制の体系的な類聚・漢才・公的世界が崩れ、院政期の非体系的な集成・和才・私的世界へと価値観が変動していき、ついに類聚的な体系性を拒否して集成すら必要ない深い宗教体験に根ざした仮名法語=「一枚起請文」の鎌倉新仏教に至るという、実にダイナミックなこの論文の骨子でした。本論文のむすびは「この序説としての古代末期の思想文化論(本論文)は、外なるものの発見が内なるものの深化として展開した鎌倉新仏教論によって完成する」と述べられています。
菊地先生は、以上の内容を説明したあと最後に「批判と論点」として、①「古代末期」という問題群、②本論文の現代的意義、③「古代末期」と平安鎌倉時代史、という3つの視点から今後の課題をクリティーク(批評、批判)して、本論文の実に詳細な読み解きを終えられました。その後の質疑応答も熱を帯び、予定を20分以上越えて充実した第一回目の講義が終了しました。
次回は5月21日「高木豊「持経者の宗教活動」を読む」です。会場は、常円寺様のご都合で「本堂下ホール」に変更されましたので、ご注意ください。当日のみの受講も大歓迎ですので、事前に連絡頂ければ「事前資料の論文」をお送りします。どうぞご聴講ください。  (スタッフ)