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沿革

本化ネットワークから法華コモンズへの軌跡

法華コモンズ仏教学林 事務局

澁澤 光紀

 

「今の時代に(本化仏教を)展開するにはどうしたらいいのか。その計画を私は持っています。私はどこの宗派にも属したくないんですよ。だけど、本化仏教を娑婆の中でどう生かすかというグループを作ろうかと思っています。一宗一派を作るんじゃなくてね。いろいろな人を集めて、仏国土成就のグループを作りたい。本化文化研究所とか、本化文化協会とかを作って。若者を養成する本化塾というのも少しやってみようかなと思っているんです。」

(『福神』第9号掲載 福神対論③《日蓮再読》「再歴史化する日蓮仏教」より)

 

平成一四年(二〇〇二)九月の彼岸前、上杉清文氏が主宰する福神研究所の所員として雑誌『福神』の編集にたずさわっていた私は、水道橋のグリーンプラザホテルの会議室で、他のメンバーと共に東洋大学教授の西山茂先生が語る声に耳を傾けていた。

この頃、福神研は高木豊先生の遺著となる『増補改訂 日蓮―その行動と思想』を太田出版から発刊して、その本に収められている書き下ろしの論文「『立正安国論』再読」の評価を糸口に、現在の日蓮仏教について3人の碩学に大いに語ってもらおうと、《日蓮再読》というインタビューを重ねていた。西山先生は、今成元昭先生、小松邦彰先生に続いて、『福神』第9号特集のための最後の対論者だった。

西山先生はこの日、福神研が用意した「『立正安国論』をめぐる日蓮再読」というテーマに対して、日蓮仏教の歴史化。脱歴史化・最歴史化という持論から始まり、再歴史化の主役は「賢王」という在家主義であることや、その折伏と四箇格言について、また石原莞爾の最終戦争論と丸腰非武装論についてなど、縦横無尽に日蓮主義とその思想を語り続けた。そして、その最後に冒頭の言葉を述べて、インタビューを終えたのだった。私の知る限りでは、おそらく初めて、西山先生自らが日蓮仏教の再歴史化へ挑戦するつもりであることを公に表明した時だったと思う。その言葉を聞いたわれわれは軽い驚きと共に、ではいつやるのだろう、どのように再歴史化が行われるのだろうと、大いに期待感を掻き立てられたのだった。そして、その時にはぜひ福神研も協力させて頂きたい、と約束して西山先生とお別れをした。今から振り返れば、この時にすでに西山先生の脳裏には、現在の「法華コモンズ仏教学林」に到るレールが敷かれていたのだろう。

このインタビュー記事が載った『福神』第9号は、編集が遅れに遅れて、平成一六年の二月に発刊されるのだが、その年の秋に西山先生からご連絡があり「事務局を手伝って欲しい」とお声がけいただいた。私は、それまでの経緯から福神研を代表してその呼びかけに応じ、翌年の平成一七年一月より東洋大学を舞台に活動を開始した本化ネットワーク研究会の世話役として、その後一一年間に渡ってお手伝いすることになった。

この本ネ研の草創期から平成二一年までの前半期にあたる活動については、本誌『法華仏教研究』創刊号に「日蓮仏教の再歴史化をもとめて」という題で報告しているので、そちらをご参照頂きたい。また、創刊号には記載されていない第四十八回から第百回までの記録は、文末に資料編として掲載したので、ぜひ目を通していただければと思う。この記録を見ると、実にさまざまなテーマで多くの講師の先生方のご協力を頂きながら、本ネ研の勉強会が続けられてきたことがあらためて思い起こされ、ご尽力頂いた諸先生方や協力頂いた方々には心より感謝を申し上げたい。

宗教社会学を専門とされる西山先生にとって本ネ研での勉強とは、机の上での教学的な研鑽のみならず、現代社会の諸問題に取り組み解決していく実践的な学びを伴うものでなければならなかった。そのため本ネ研の月一回の例会では、教学理論的なテーマと社会実践的なテーマを交互に取り上げて、いわば行学二道の要諦を維持するように努めてきた。特に社会実践的なテーマを扱う場合は、何の面識もない先生に仲介者もなく連絡して講義をお願いすることも多く、それでも断られることもなくよく受けて頂いたものだと感心することがしばしばだった。これもひとえに、西山先生のご高名と真摯さによるものだったと思う。

講義のテーマについても、また講師の選定についても、西山先生の提案によるものが多かったが、特に現代社会の問題についてはスローワークや非暴力や環境問題など、われわれ事務局が知らないテーマや講師の名前を挙げられて、大いに啓発されて視野を広げていただいた。本報告では、平成二十一年以降の本化ネットワーク研究会の後半期の活動を振り返ると共に、西山先生の提案により本ネ研が法華コモンズ仏教学林に発展解消していく、その経緯を述べていこう。

 

資料編にあるように、本ネ研は毎月さまさまなテーマを取り上げ勉強会を続けながら、毎年夏には二日間の「夏季セミナー」を開き、毎回重要なテーマについて集中的に学び、そして論議する場を設けてきた。夏期セミナーは、平成一七年から平成二七年までに一一回を数えて、毎月の例会は百回に達した。この例会と夏期セミナー講義の成果としてうまれてきたのが、本化ネットワーク叢書の刊行である。

本化ネットワーク叢書は、平成二三年に山上弘道氏の連続講義をまとめた『日蓮の諸宗批判―「四箇格言の再歴史化」の前提』が最初となる。その後に第七回夏季セミナーの内容をまとめた叢書②『「九識説」とは何か―その起源・展開と現況―』が平成二五年に発刊される。そして平成二七年には第九回夏季セミナー講義録として叢書③『本門戒壇論の展開』が発刊されている。この本化ネットワーク叢書は大好評を得て、各巻再版をしながらロングセラーを続けている。

こうした出版事業に先立って、平成二〇年には西山先生は「本化四菩薩プロジェクト」を打ち出して、実践的な本ネ研の今後の姿を構想していた。本化四菩薩プロジェクトとは、如来使の社会的使命として四菩薩のそれぞれの徳に合わせてその役割を割り振ったもので、同年四月の試案では次のように説明されていた。

《本化四菩薩プロジェクト案》

〇上行菩薩(立正安国)―正義・公正・平和・人権・平等(虐げられた人々への共感・連帯・支援活動)

〇安立行菩薩(抜苦与楽)―医療・保健・福祉・経済・経営(苦しむ人々への同悲同苦と抜苦与楽)

〇浄行菩薩(洗心浄土)―宗教・教育(一念)・環境(三千)(人々の心身と環境世界浄化への啓蒙・実践活動)

〇無辺行菩薩(究理潤世)―教学・現代思想・科学技術・社会科学(学びと研究)

そして、この四菩薩プロジェクトを実現するための組織改革として、勉強会中心の本ネ研を講義部門として位置づけて、その他に出版部門も創設して、四菩薩プロジェクト部門とも本来のネットワーキングで結ぶ「本化ネットワークセンター」とすることとなった。四菩薩プロジェクトは各責任者を見出すことが困難であったため、実働化することはできなかったが、理念としては、後の例会のテーマ選択において活用されていった。

本化ネットワークセンターに移行したのは平成二三年だが、ちょうどこの年の三月に「東日本大震災」が起こり、西山先生は強い責任感と危機意識の中で、ネットワークセンターへと移行する意義を次のように述べていた。

 

「3・11四菩薩プロジェクト―本化ネットワーク・センターの実践」

1.会員制への移行と会名の変更

この度、わが国は、千年に一度の東日本大地震に見舞われました。それだけでなく、今度の大震災は、未

曾有の大津波とレベル7の原発事故をもたらしました。

依正・身土を分かたずに国土の成仏をも願う「立正安国」の本化仏教は、この事態を黙視することの出来

ない宗教であるはずです。ここで何事もしないならば、本化仏教の存在自体が無意味なものになるでしょう。

我々は、いま、この悲惨の本化仏教的な意味を深く考えつつ困難に直面している友人たちのために働かな

ければなりませんが、同時に、大地烈震が本化四菩薩出現の瑞相でもあるとする宗祖の金言をかみしめるこ

とも必要かと思います。

そこで、本化ネットワーク研究会は、本日以降、四菩薩プロジェクトを総担する会員制の本化ネットワー

ク・センターとして生まれ変わり、従来の研究会機能は本化ネットワーク研究会の旧名を踏襲しつつ、四菩

薩プロジェクトのなかの「無辺行プロジェクト」が継続していくことになりました。

とはいえ、本化ネットワーク・センターは、当面、それ自体が活動するというよりも、ウエブサイト上で

会員に一定の活動を呼びかけ、会員が互いに問題提起して活動を呼びかけ合えるネットワークの中心として

機能するつもりです。

また、今回、本化ネットワーク・センターは、早速、時宜に適った活動として、以下のような「3・11四菩薩プロジェクト」を、近々、ウエブサイト上で会員諸兄姉に呼びかけるものです。

(レジュメ 「2011.4.21/本ネ研4月例会/nishi」より抜粋)

 

3・11四菩薩プロジェクトは、前述の四菩薩の理念に沿って、次のように具体的活動を伴う提案だった

①上行P―3.11の立正安国論的読解案と復興構想会議への提言案の作成。

②無辺行P―3.11問題も含む本化ネットワーク研究会の企画・運営。

③浄行P―放射能汚染地域への「ひまわり・菜の花プロジェクト」。

④安立行P―身寄りのない高齢者子供収容、福祉ボランティア、無縁物故者供養。

しかし、この提案は実質的な担い手を欠くことで、実施にまではいたらなかった。また、会員を募っての本化ネットワークセンターに移行したものの、ウェブサイト上に新たなHPを作成する計画も進まず、主には新たな出版部門の活動に力を注ぐことで、本化ネットワーク叢書を次々と発刊していくこととなった。

西山先生が具体的に法華コモンズにいたる学校構想を語り始めるのは、平成二四年九月の第八回夏季セミナー「現代の担転共業―われわれの使命とは何か―」においてだと思う。そのセミナーの中で西山先生は、「本化学術コモンズの可能性―対抗から連携へ―」《無辺行P》を発表されている。しかし、この頃は『シリーズ日蓮』の編集作業も本格化しており、出版資金の勧募活動は一段落していたが、全五巻の発刊準備と執筆活動がこれからという時期であり、この構想に基づいての本格的に実働には着手することができなかった。

西山先生はこの年の三月に、ご持病を理由に定年より一年早く東洋大学を辞められて、四月より名誉教授になられていた。その関係で会場も移さざるを得ず、東洋大学の教室を去って、新宿常円寺祖師堂の会議室をお借りすることなり、この夏季セミナーも常円寺祖師堂一階を会場に開催している。例会は毎月ごとに開催されていたが、『シリーズ日蓮』の第四巻「近現代の法華運動と在家教団」を一人で編集することもあって先生は多忙を極められていた。西山先生がその後にコモンズ構想について積極的に動き始めるのは、第四巻が発刊後に九月に行われた第四巻講演会と重ねて開催された第一〇回夏季セミナーが終了した後、平成二六年の秋になってからである。一〇月には《本化コモンズ構想私案》と題された企画書が提出され、本化コモンズに向けての動きが本格化していく。「未完の私案」と注意書きされているこの企画書からは、当初は専門大学として考えられた運営形態や、諸科目への緻密な配慮をうかがうことができる。次に掲載しておく

 

《本化コモンズ構想私案》

〇建学の精神・妙法を正確に継承し、時空を誤らずに認識し、本化菩薩の使命を十全に果たそう! か

・われら本化人、正しく境智を学び、本国土を顕さん! か

・(門下の)多様性を尊び、一致を求め、使命を共に果たそう! か

〇設置の所以・田中智学と山川智応が目標としていた「本化大学」の実現

・本多日生が唱えた「(門流)統一」の実現

・本化ネットワーク研究会の永続策

〇学校のかたち

①単位互換を認めるだけの「本化コンソシアム」か、

②天台三大部や中文古典等の共通で持ち合うほうがいい教学基礎科と、現代思想や社会学・心理学等の正

観学、四菩薩P等の実践に必要な非暴力直接行動的や本化臨床(ビハーラ・グリーフケアなど)の正践学

(顕土学)の関連科目を新規に開講する「本化コモンズか、(または)その両者か

③単位制とする ④履修期間は1年 ⑤フロア貸切の常設専門学校とする

⑥コンソシアムを兼ねる(?) ⑦開架式の図書室も作る

〇参加予定の法人―興隆学院(尼崎)、陣門学林(三条・本成寺)、真門学林(京都・本隆寺)、興風談所、

佛立教育専門学校、立正大学、同大学院、身延山大学、尼衆宗学林(修学院)、立正佼成会学林、国際仏教大学院大学(霊友会)、冨士学林大学科(法教院)

〇支援の諸団体――日蓮宗、日蓮正宗、日蓮本宗(要本寺)、日蓮講門宗(不受不施派)、日蓮宗法音寺、

顕本法華宗、法華宗(本門流)、法華宗(陣門流)、法華宗(真門流)、本門法華宗(妙蓮寺)、保田妙

本寺、西山本門寺、本門佛立宗、日蓮主義佛立講、獅子吼会、浄風会、国柱会、本化妙宗連盟、正法事門

法華宗、創価学会、立正佼成会、霊友会、妙智會、妙道会教団、孝道教団、大乗教、法公会、真生会など

〇開講科目

Ⅰ.基礎科目

①世界宗教各論・世界宗教史 ②アジア仏教各論・アジア仏教史 ③日本宗教各論・日本宗教史

④日本仏教各論・日本仏教史 ⑤宗教地理学・宗教伝播論 ⑥宗教制度論・宗教運動論

⑦宗教衰退論・宗教復興論 ⑧宗教社会学 ⑨宗教心理学 ⑩宗教民俗論 ⑪近現代思想

⑫日本国憲法・宗教法人法 ⑬仏菩薩・神祇解説 ⑭梵文読解 ⑮漢文読解 ⑯日本古文書読解

⑰釈尊伝概説 ⑱日蓮伝概説 ⑲鎌倉期政治社会論

Ⅱ.究理科目

①インド宗教思想概説 ②大乗仏教思想概説・大乗仏教成立史 ③法華経概説 ④法華経成立伝播史

⑤羅什訳法華経概説 ⑥天台三大部概説 ⑦天台本覚論概説 ⑧日蓮遺文概説 ⑦台当教学異目

⑧門流教学異目 ⑨本化教学コモンズ論 ⑨日蓮遺文真偽論Ⅰ・Ⅱ ⑩門流の成立と展開

Ⅲ.潤世科目

①近代化と戦争 ②近代化と貧困 ③近代化と環境破壊・故郷喪失 ④ポスト近代と再共同体化

⑤非暴力平和運動論 ⑥諸学における本化的パラダイム転換論 ⑦悉皆成仏的環境運動論

⑧グリーフケア(ビハーラ) *未完の私案

(レジュメ「2014.10.26/nishi」抜粋)

 

この頃から、法華宗陣門流の教学部長である布施義高先生が本化ネットワークセンターの事務局に加わって、共に活動していく。実は西山先生は、早くから本化コモンズ学校の校長を布施先生にお願いすることを考えていた。そのため、共に構想を練っていくためにも布施先生を事務局に招き入れる必要があったのだ。そして運営体制としては、センターの下に①本化ネット研(勉強会)部門、②出版部門、③本化コモンズ部門、④財政部門を置いて、その責任者には現在の事務局員があたることとして、本ネ研部門は私、出版部門は西條義昌氏、本化コモンズ部門は布施義高氏、財政部門は谷口智氏が責任者となった。

その翌年の平成二七年一月の第九四回例会では、西山先生が「本化コモンズをつくろうー本ネ研のこれから―」というテーマで、本化コモンズ構想私案に基づいての展望を語り、その後の質疑で話が大いに盛り上がった。しかし、この時点でイメージされていた本化学校の運営形態は、独自の施設を持つ学校やビルのフロアを借りる専門学校のような形だったので、いずれにしてもまとまった資金が必要であり、有力なスポンサーや確実な資金賛助者の助力が不可欠だろうとの話になった。

そうした資金的困難を考慮して、次に西山先生考えたのがその年の四月に提示された「法華コモンズ市民大学構想梗概」である。その内容は、規模を大幅に縮小した形で「市民大学」のような形であれば可能ではないかとしたもので、名称も広く受講者を募るために「法華コモンズ」と変え、具体案を次のように提示している

 

《法華コモンズ市民大学構想梗概》

1.趣旨

日蓮聖人の教えを正しく理解してそれを現代社会に「再歴史化」(現代社会での信憑性構造の再確立、やさしくいえば現代的蘇生)するための門流と会派を超えた諸個人の学びの場であるという本化ネットワーク研究会の性格を踏襲し、今後の本化仏教を担って本化仏教を流布し、この濁世を不毀の浄土に変えるべく奮闘する本化地涌菩薩を発掘・養成するとともに、本化の法友がともに学びともに成長してその使命を全うできるような、市民の誰人にも開かれた、また、門流と会派を超えた諸個人の学びの場をつくりたい。

  • 設置・運営主体と支援団体
    • 設置と運営には、いままで本化ネットワーク研究会や叢書を発行してきた本化ネットワークセンターがあたる。
    • 支援団体には『シリーズ日蓮』全5巻の完結でまとまりを強めつつある伝統的な本化諸教団と法華系新宗教諸教団とその教育機関・研究所等を想定し、出資等の支援をうったえる。研究所としては、現代宗教研究所・佛立研究所、東洋哲学研究所・中央学術研究所・本化仏教研究所等を考慮の対象とする。
    • 本化ネットワーク研究会がすべての中心になることは、いうまでもない。
  • 学校種別と設置場所
    • 学校法人法上の専門学校の認可を受けない修学の場とする。
    • 設置・運営の主体になる本化ネットワークセンターを一般法人とする。
    • 設置場所としては、交通に便利な都内の本化寺院の境内かその周辺が望ましい。

具体的には、日蓮宗の新宿常円寺か法華宗陣門流の巣鴨本妙寺など。

  • 活動形態と教育内容
    • 誰でも参加できるように、夜間に開講する。
    • 科目の種別にもよるが開講回数は、原則として3回ほどに抑える。
    • 教区課程表上の開講科目の数も、当初は、それほど多くしない。
    • 教育内容は、「本化教学科目群」と「本化実践学科目群」および宗教と現代の諸問題に関する「基礎知識科目群」の三分野にわたるものとする。
    • 科目選択は受講者に任せる。一科目でも複数科目を受講してもいいが、複数科目を受講する場合の系統制と一貫性についての指導については、受講者の受講意図を聞いたうえで、こちら側が用意した想定コースメニューにしたがって適切におこなう。

(レジュメ「2015.4.22/nishi」より)

 

この構想梗概では、「本化寺院の境内かその周辺」で場所借りすることで教場を確保し、カルチャーセンターのように各科目別に開講し、サラリーマンも受講できるように開講時間を夜間にするなど、経済的な負担を大幅に減らしていた。また、科目数も開講回数も抑えながら、それでも受講者の学的向上が計れるように指導するなど、現状を踏まえての実現可能な活動形態が示されていた。

法華コモンズ仏教学林は、結局この構想梗概にそった形で実現されていくのだが、六月には『シリーズ日蓮』第5回講演会と完結祝賀会があり、八月下旬には第一一回の夏期セミナーが開催されて、すぐには本格的な準備会議を開くことができなかった。そして九月には本ネ研の例会が百回を数えることもあって、この百回目を最終講義にして本ネ研は終了、その後は法華コモンズに移行することとなった。百回目の講師は、西山先生の盟友であり、ずっと会場のご協力を頂いた東洋大学学長の竹村牧男先生にお願いして、「非情成仏のエコ・フィロソフィ」という題で九月二五日にご講義を頂き、本ネ研例会は一一年間にわたる歴史と使命を終えたのである。

しかし、その時点ではまだ法華コモンズに移行するには準備不足で、開講するためには半年間の準備期間がどうしても必要であった。その間は、校長となる布施先生に講義してもらう予定だったが、布施先生がお願いしたところ花野充道先生が中古天台本覚思想の講義を快諾して下さり、急遽に一〇月から翌年の三月まで六回にわたって「天台本覚思想史」を法華コモンズ・プレ講座として開設できることとなった。このプレ講座は、法華コモンズ受講の需要がどれほどあるのか、受講者の要望はどのようなものか等を知るためのテストケースでもあったが、講義が始まって驚いたのは第一回の聴講者が四〇名を上まわり、その後も毎回三~四〇名の聴講が続いたことだった。実は、本ネ研例会でも四〇名を越える参加はほとんどなく、ひとえに講師と講題の魅力によるものと感心しながらも、法華コモンズ開講への期待が高いこともはっきりとわかって来た。

この花野先生のご協力のお陰で講義の空白期間を作ることなく、われわれは開講のための準備に入るこおtができたが、それにしても時間はなかった、「法華コモンズ」開講のためのロードマップとして来年四月開講までの六ヶ月間の内、前半三ヶ月を体制づくり、後半三ヶ月を募集期間とすることを確認し、準備会議を重ねた。準備会議のメンバーは、本ネ研から西山茂氏、布施義高氏、西條義昌氏、谷口智氏、そして澁澤の五名と、福神研究所から上杉清文氏、法華仏教研究会から花野充道氏、そして法華宗陣門流の竹内敬雅氏が途中から加わり、毎月プレ講座の三時間前を定例会議として、講座・講師の交渉から受講用冊子・チラシの準備、会場での音響資材など、急速に準備が整っていった。特にその後に講義をしなければならないのに、毎回会議に出席してご尽力頂いた花野先生には心より御礼申し上げたい。

そして、いよいよ平成二八年四月より法華コモンズ仏教学林が開講する運びとなったが、この開講は西山先生が当初に構想した本化仏教大学校への第一歩にほかならない。この第一歩を支えるスタッフは次の陣容となる。

 

《運営スタッフ(役員)》

〇理事長:西山 茂  〇副理事長:佐古弘文 〇校長:布施義高

〇事務担当:澁澤光紀 〇総務担当:西條義昌 〇財政担当:谷口 智

〇会計主任:竹内敬雅

《教学委員》

〇上杉清文  〇花野充道  〇菅野博史

《講座担当者》

講座① 〇小松正学  〇稲田隆広

講座② 〇松永良樹  〇影山海雄

講座③ 〇波田地克利 〇林明彦

講座④ 〇稲田隆広  〇持田貫信

講座⑤ 〇竹内敬雅、 〇大賀義明  ※以上敬称略

 

講座担当者は、竹内氏を除き受講申込を頂いた方々の中から選抜して依頼した方々で、受付や記録など講座の円滑な運営を担う実務スタッフである。こうしたボランティアの方々がいないと、法華コモンズの運営は難しい。各講座の講師をお引き受けいただいた先生方も、限りなくボランティアに近い形でお願いしている。つまり、法華コモンズは、講師と受講者の支援の下で維持・成長していく学びの場にほかならない。

本化ネットワーク研究会は法華コモンズ仏教学林に移行したが、本化ネットワーキングの働きはますます必要とされて、また時代に応答した日蓮仏教の動きも増してきていると感じている。再歴史化とは、時代状況を的確に把握し、今を生きながら未来を切り拓いていく教えを生み出すことである。法華コモンズ仏教学林がその基盤となり、新たな日蓮仏教の練磨と創出の場となっていくよう、皆様のご支援・ご協力を頂きながら創造的な運営を期していきたい。

開講に先立って、西山理事長と布施校長がインタビューに応じて、『週刊仏教タイムス』と『中外日報』に記事が掲載された。ここでは紙面の都合で一紙のみ、開講に向けてその抱負を語った『仏教タイムス』の記事を転載することで、本報告を閉じたいと思う。

 

『週刊仏教タイムス』平成二八年二月二五日

《法華コモンズ仏教学林 開講 》

〈門流を超え4月スタート 日蓮聖人の弟子を養成〉

日蓮仏教を研鑽しようと門流を超えて定期的に勉強会を開いてきた本化ネットワーク研究会(本ネ研、主宰=西山茂東洋大学名誉教授)が昨秋、一一年にわたる活動の幕を閉じた。これを母体として法華コモンズ仏教学林が誕生し、この4月から、1特別講座と5連続講座でスタートする。西山氏が理事長、法華宗(陣門流)教学部長の布施義高氏が校長を務める。

前身である本ネ研には日蓮宗や法華宗、冨士派など各門流の教学者や実践家、また立正佼成会や創価学会、国柱会、浄風会などの在家教団の教学関係者らが定例研究会や夏合宿に参加。「異なる立場の人たちが集うことができたのは西山先生の力」(布施氏)という。この研究会は参加者同士が刺激しあう一方で、研究機関同士が交流を持つきっかけにもなった。

こうした横断的なつながりが生まれてきた実績もあり、2年前から法華コモンズが構想された。コモンズは「共有地」を意味し、この場合、開かれた学びの場の提供と言うことである。西山氏は「門流や会派を超えた法華仏教の学び舎」と位置づける。西山氏は、本ネ研以来唱え続けてきた「日蓮仏教を現代に再歴史化(蘇生)すること」が目的の一つだと語る。

日蓮宗の伝統教学(いわゆる大崎教学〈立正大を軸とした日蓮教学〉)の限界も背景にあるという。2年にわたって刊行された「シリーズ日蓮」(春秋社、全5巻)はその象徴であった。かっての「講座日蓮」(全5巻)は大多数が日蓮宗関係者だったが、シリーズ日蓮では、日蓮宗以外の教学者や研究者が健筆をふるった。

一方で門流を超えた課題に人材(法器)養成がある。教える側の人材不足も影を落とす。そのため共通した学びを通して裾野を広げることも可能となる。布施氏は「さまざまな分派の歴史もあるが、等しく日蓮聖人の弟子。この『場』を通じて次世代を担うリーダーが出てくるようにしたい」と希望を口にした。

2年後の一般財団法人化を視野にいれている。

スタッフは次の通り(敬称略)。理事長・西山茂、副理事長・佐古弘文、校長・布施義高、事務担当・澁澤光紀、総務担当・西條義昌、財政担当・谷口智、会計主任・竹内敬雅。今年度の講座は次の通り。

▽特別講座「現代における仏教倫理の可能性」末木文美士氏(国際日本文化研究センター名誉教授)。5月28日(全3講座)5千円。▽講座①「インドの『法華経』を読む」苅谷定彦氏(興隆学林名誉教授)。4月2日より毎月第1土曜日(午後5時)。▽講座②「日蓮教学史と諸問題」布施義高氏。4月16日より主に第3土曜日(午後3時)。▽講座③「日蓮教学と中古天台教学の検討」花野充道氏(法華仏教研究会主宰・文学博士)。4月16日より主に第3土曜日(午後6時)。▽講座④「『法華玄義』講義」菅野博史氏(創価大学教授)。4月25日より主に第4月曜日(午後6時30分)。▽講座⑤「日蓮聖人教学の基礎」庵谷行亨氏(立正大学教授)。4月14日より主に第2木曜日(午後6時45分)。

受講料はそれぞれ1期(6ヵ月)6回1万2千円。一回のみの聴講は3千円。会場は常圓寺(東京都新宿区西新宿7―12―5)申込みは3月から。メール(hokkecommons@gmail.com)もしくはFAX(042―627―7227)。近くホームページを開設する。                             以上

2016年3月 記す

『シリーズ日蓮』から「法華コモンズ」へ

―日蓮仏教を学び行う新たな試み―

法華コモンズ仏教学林事務局 澁澤光紀

1、はじめに

 

この度は興統法縁様の第三八回総会にお招き頂きまして有難うございます。ご紹介頂きました法華コモンズ仏教学林事務局長の澁澤光紀と申します。本日は、講題にもありますように、日蓮仏教を学ぶ新たな試みとして本年(平成二八年)四月に立ち上げた「法華コモンズ」の話をさせて頂きます。

皆さまご周知の通り、日蓮教団は日蓮聖人の滅後において分派を繰り返して、各門流・宗派ごとの宗学や宗史の研究が積み重ねられてきました。その流れは近現代にも及んで、新旧を問わず日蓮教団の研究者が宗派の垣根を越えて日蓮研究に打ち込む共同の場はなかなか成立することがありませんでした。

しかし、近年において宗派の枠を超えて日蓮仏教を論じ合ってその現代化を図りたいという動きが高まり、幾つかのグループが作られて行きました。その中で、日蓮思想の現代思想化をめざす「福神研究所」(一九九一年設立)、日蓮主義の再歴史化をめざす「本化ネットワーク研究会」(二〇〇五年設立)、自由で開放的な日蓮研究の場作りをめざす「法華仏教研究会」(二〇〇九年設立)の三者が共同して取り組んだのが、出版企画『シリーズ日蓮』でした。この出版企画は、国内外から七〇余名の執筆者を揃えて、宗門の枠を越え教団の歴史と教義の全貌を明らかにしつつ、未来に向けての日蓮思想の現代化を提示していこうという画期的な試みで、また各巻ごとのテーマで全五回の講演会も行いました。『シリーズ日蓮』は平成二七年に完結しますが、その成果を糧にすることで本年四月より法華経と日蓮思想を学び実践するため日蓮門下が集う共有地(コモンズ)として、「法華コモンズ仏教学林(以下、法華コモンズ)」をスタートさせることができました。

今回、「法華コモンズ」へ到った経緯を説明するにあたり、「宗派を越えて」という理念の淵源として山川智応『聖祖門下各教団合同の根本的可能性を論ず』(昭和16年)を取り上げます。また近年の宗派を越えた教学的試みとして「法華思想懇話会」にも触れながら、法華コモンズ設立の基となった「本化ネットワーク研究会」と『シリーズ日蓮』の活動を辿っていきます。最後に法華コモンズ仏教学林が担うべき今後の課題について、問題提起のかたちで触れていければと思います。

 

2、「門下合同」時における統一への願い

 

昭和一六年、伝統仏教教団は国家総力戦体制下での「宗教団体法」(昭和一五年施行)に基いて、それまでの十三宗五十六派が合同されて二十八派となります。日蓮系ではそれまでの九教団が、やがて大合同することを前提に先ず可能な教団が合同して、昭和一六年三月三一日には次の四教団となります。

〇日蓮宗+顕本法華宗+本門宗→日蓮宗

〇法華宗+本門法華宗+本妙法華宗→法華宗

〇日蓮宗不受不施派+日蓮宗不受不施講門派→本化正宗

〇日蓮正宗→日蓮正宗

この合同は総力戦に向かう国策の一環として行われたのですが、それ以前に本多日生が主導して大正時代に盛り上がった「門下統合・統一」運動の下地があって、期せずして門下統一の理念を実現化したものとなりました。

山川智応は『聖祖門下各教団合同の根本的可能性を論ず』(昭和一六年七月一六日付)において、この合同について「この一大合同還帰は、御門下六百数十年来の、最も霊なる聖事業であることは、是れまた疑ひのないところ」であり、「祖廟を中心として各教団が、一大聖祖に還元帰入せられんことを勧進して息まない」と絶賛しました。その中で山川は本門宗・顕本法華宗・日蓮宗の合同について、次のように述べています。

「聖人門下における事実分派のはじめは、富士日興上人が聖滅七年に身延を去られたのに創まる。そして上人の開創に成る寺は、今の日蓮正宗の本山となってゐる大石寺と、今度日蓮宗に合一してその本山となつたる、本門宗の北山本門寺(重須本門寺)があるが、~略~興師門下北山本門寺等の七本山を含む本門宗は、本勝迹劣を主張する最初の派なるに拘らず、今度祖廟中心の下に日蓮宗に合一した。~略~興師についでの分派の師は、顕本法華宗の日什師であって、~略~今や管長井村日咸師の英断で、時局に感じ、また祖廟中心の下に日蓮宗の中に合一せられた。」

山川は続けて法華宗の三派合同、不受不施の合同、日蓮正宗の不合同にも触れてから「九教団が日蓮聖人の一つの教団への還元ができなかったのは、時局観と法義尊重観と実践観との間に、おのおの所見の相違があった為」だが、しかしその相違は合同を不可能にするような絶対的なものではない、と述べます。また、典型的な教義上の相違として「本尊問題」にもふれて、日蓮聖人の宗教の本尊は、仏(人本尊)か、法(法本尊)か、あるいは僧(末法の日蓮本仏)かという違いに関して、御遺文に根拠があるものならば「決して帰一しないわけはない」と断言しています。

そして、「苟も聖祖門下たるかぎり、今の四宗をば唯一宗にする運動が、宜しく続けられねばならないとおもふのである。~略~合同宗門においては、必ず『宗義高等審議所』を設くることの前提の下に、祖廟を中心としての各教団が、一大聖祖に還元帰入せられんことを勧進して息まないものである」と、その帰一への熱情を吐露しています。

私は、こうした日蓮教団の分裂を憂いて「一大聖祖に還元帰入」を念願する山川智応の熱情こそ、現在の日蓮門下が共有すべき想いであり、法華コモンズに繋がる源流であると感じています。

 

3、日蓮系教団との宗派をこえた交流

―「法華思想懇話会」と「本化ネットワーク研究会」の試み―

 

敗戦後は、宗教団体法の廃止により戦時の合同が解かれますが、日蓮宗は宗教法人法の下で再び三派合同をしています。その後の日蓮門下統一の動きとして、昭和三五年に「日蓮聖人門下連合会」が出来ますが、立正佼成会や創価学会など法華系新宗教の台頭もあり、伝統教団と新興教団の対立が激化することで統一への道は遠ざかりました。また、祖廟を中心として結集した日蓮聖人門下連合会においても、教義的な論議は避けて懇親と合同行事を主な活動としたので、教学的に聖祖に帰一するための研鑽は行われませんでした。

そうした状況の中で、宗派の対立を越えて日蓮聖人に帰一するための試みは、小さなグループ活動として現れてきました。その一つが「法華思想懇話会」でした。

西山茂氏が「門流をこえた法華仏教のネットワーク運動」(春秋社刊『シリーズ日蓮』四巻三二四頁)に次のように書いています。

「天台宗や法華系新宗教を含む法華仏教の対話のネットワーキングを試みたものとして、法華思想懇話会(中央学術研究所の梅津礼司(当時)が主唱、教団・教団系研究所間対話が中心、1993年に活動を開始して1999年頃に休会)があったが、現在は会の運営をめぐる教団間の意見対立のために活動を休止している。」

この「教団の意見対立のため」というのは、平成八年(一九九六)に同会が創価大学内の東洋哲学研究所を会場として開かれるに際して、その当番となった日蓮宗の世話人二人が案内状に宗内の公職名を書いていたことを宗内で咎められ、両名が世話人役を降りたという問題です。この日蓮宗内での反発には、敵対する創価学会が参加する会の世話人を、宗門の公職に就く者が行うのは以ての外という批判や、法華思想懇話会に参加することは創価学会の懐柔策に取り込まれることだ、といった警戒心もあったと思います。会の活性化を担ってきた中堅の両師の脱落は大きく、その後に休会に至った最大の原因となりました。

この会には直接は関わっていなかった西山茂氏ですが、自らが定義した「日蓮主義の再歴史化(現代化)」という課題のために、同様な宗派横断的な研究と集いの場を欲していたこともあって、この事態の反省をふまえた上で、教団単位ではなく個人レベルで運営・参加する研究会を構想していきます。

西山氏が「日蓮主義の再歴史化のための研究会」をいつから考え始めていたかといえば、雑誌『福神』の創刊号(平成一一年・一九九九年刊)での論考「田中智学と日蓮主義を再考する」になるでしょう。その中で西山氏は、日蓮主義の歴史化、脱歴史化、再歴史化の理念を提示し、「本化宗徒が主体的に~略~一定の「構想力」のもとに、日蓮主義の「脱歴史化」と「再歴史化」に真剣に取り組めば、必ずや活路が拓ける」と述べています。

そして、その三年後の平成一四年に西山氏にインタビューした記事「再歴史化する日蓮仏教」(『福神』第九号)で、本化仏教による仏国土成就のための研究会を設立したいと表明、平成一六年秋より本化ネットワーク研究会(以下、本ネ研)構想のための準備会をへて、翌年一月から東洋大学の会議室において、本ネ研の月例勉強会が始まります。

その第一回目は「日蓮聖人の折伏観について」(講師・山上弘道氏)で、以後も例会は月に一回(七~八月は休み)のペースで開催され、平成二七年九月の第百回記念講義「非情成仏のエコ・フィロソフィ」(講師・竹村牧男氏)まで一一年間続けられます。その間には年に一度の夏季セミナ―(二日間開催)も一一回開かれました。

同会の月例勉強会のテーマの選び方は、「理論的テーマ」と「実践的テーマ」を月毎に入れ替えて行うことを原則にして、様々な課題を取り上げましたが、夏季セミナ―でのテーマ設定に同会の性格がよく出てますので、次に一覧します。

 

(夏季セミナーのテーマ)

平成一七年 第一回「近現代における本門戒壇思想の展開」

平成一八年 第二回「常不軽国家日本の建設」

平成一九年 第三回「不軽菩薩と憲法9条」

平成二〇年 第四回「本化社会仏教という構想力」

平成二一年 第五回「立正安国の再歴史化」

平成二二年 第六回「四箇格言の再歴史化―宗祖の破邪を踏まえて―」

平成二三年 第七回「「九識説」とは何か―その起源・展開と現況―」

平成二四年 第八回「現代の担転共業―われわれの使命とは何か―」

平成二五年 第九回「本化仏教における戒壇思想の展開-授戒壇と成仏国土」

平成二六年 第一〇回「日蓮仏教の近現代ーその展開と課題」

平成二七年 第一一回「同一苦」担転の教学と実践―オキナワとフクシマへの回向-

『シリーズ日蓮』という出版企画は、こうした本ネ研の「学びの場」に宗派を越えて集って来た人々と団体によって、立ち上がって来たのです。

 

4、「『シリーズ日蓮』刊行会」の設立とその活動の歴史

 

『シリーズ日蓮』の活動は、「福神研究所」(所長・上杉清文)、「本化ネットワーク研究会」(主宰・西山茂)、「法華仏教研究会」(代表・花野充道)という三つの団体と、法華宗陣門流の後援によって動きはじめました。

出版企画の発端は、法華仏教研究会の花野氏が「全日蓮教団大辞典」の出版企画を福神研に相談、一緒に大蔵出版の編集者と会った事によります。編集者から「辞典は費用と時間がかかりすぎる」と断られて、この企画を断念した花野氏に、「講座日蓮のように論文を集めた単行本シリーズならば出来るでしょう」と上杉氏が提案した事から始まります。

その後、西山氏や陣門流宗務総長の佐古氏に相談して企画案を練り上げ、責任編集者として小松邦彰氏ならびに末木文美士氏を引き入れて、春秋社とも打合せて了解を得て、平成二二年一二月に第一回編集者会議を開催、実現に向けてのスタートを切ったのです。責任編集者は五名で、以下の巻を担当しました。

第一巻「法華経と日蓮」小松邦彰+花野充道

第二巻「日蓮の思想とその展開」小松邦彰+花野充道

第三巻「日蓮教団の成立と展開」小松邦彰+花野充道

第四巻「近現代の法華運動と在家教団」西山 茂

第五巻「現代世界と日蓮」上杉清文+末木文美士

その後、二三年三月の東日本大地震で作業は一時停滞しましたが、同年八月には計画をまとめて、出版費用を賄うために「『シリーズ日蓮』刊行会」を立ち上げ、広く日蓮門下に勧募金をお願いしました。翌二四年には勧募金も目標に達し、編集作業も本格化して、予定通り二六年より第一巻が発刊し、二七年の第五巻発刊をもって完結します。

その間には各巻の発刊ごとにその内容を検討する「講演会」を開催するなど、『シリーズ日蓮』の発刊には幾つかの特筆すべき点がありますが、画期的な事は次の二点でしょう。

一つは、刊行会の発起人として伝統・新興を問わずに門下全体から賛同を頂けたことです。これは門下連合の賛同を得たことも大きかったと思います。もう一つは、これまで日蓮研究全般にわたる出版としては立正大学中心の編集が通例でしたが、今回は通例とは別の五人の責任編集者が担当したことで、宗派を越えての企画となり得たことです。これはまた、日蓮研究の裾野が広がったという事でもありました。

そして『シリーズ日蓮』終了後、この刊行会の中心メンバーが運営スタッフとなって、法華コモンズ仏教学林がスタートするのです。

 

5、法華コモンズ仏教学林の開校とその課題について

 

西山茂氏が初めて「法華コモンズ」構想について語るのは、平成二四年の第八回夏季セミナーでの講義「本化学術コモンズの可能性―対抗から連携へ―」になります。コモンズとは共有地のことで、日蓮門下のコモンズ(共有地)を作ろうという提案でした。実現に向けて動き始めるのは、『シリーズ日蓮』第四巻の講演会と重ねて開催された第一〇回夏季セミナーが終了した平成二六年一〇月からです。当初の《私案》では、設置の目的として次の三点が挙げられていました。

①田中智学と山川智応が目標としていた「本化大学」の実現

②本多日生が唱えた「(門流)統一」の実現

③本化ネットワーク研究会の永続策として

しかし《私案》の①は、本格的な大学レベルの構想であったため実現が難しく、最終的に本化大学を目指すとしても今は可能な運営方法を選び、本化寺院に会場を借りて幾つかの講座をカルチャーセンターのように開設することになりました。そして二八年四月の開講を目指して、「法華コモンズ仏教学林」の活動が始まります。

本ネ研は、平成二七年九月に月例勉強会を第百回で閉じた後、試行期間として一〇月から翌年三月まで六回にわたり開かれたプレ講座「天台本覚思想史」(講師・花野充道氏)の運営を最後に法華コモンズに合流して、一一年間にわたる活動の幕を閉じました。

こうして準備された「法華コモンズ仏教学林」ですが、新宿常円寺様を会場にお借りして平成二八年四月より、五つの連続講座と一日集中講義を用意しスタートを切りました。二八年度に開講した講座は次の通りです。

《法華コモンズ講座(二八年度前期)》

(一日集中講義)

○現代における仏教倫理の可能性」末木文美士先生 五月二八日開講

(連続講座)

○「インドの『法華経』を読む」苅谷定彦先生 四月~九月(六回)

○「日蓮教学史と諸問題」布施義高 先生 四月~翌年三月(一二回)

〇「日蓮教学と中古天台教学の検討」花野充道先生 四月~翌年三月(一二回)

〇「『法華玄義』講義」菅野博史先生 四月~平成三〇年三月(二四回)

〇「日蓮聖人教学の基礎」庵谷行亨先生 四月~九月(六回)

《後期の講座として追加する講座》

(一日集中講義)

〇特別講座「近代仏教研究の最前線」大谷栄一・近藤俊太郎・碧海寿広の各先生  一〇月二六日開講

(連続講座)

〇「日蓮聖人遺文研究」都守基一先生 一〇月~翌三月(六回)

〇「初期仏教研究―仏滅年代論・経典の成立―」池上要靖先生 一〇月~翌三月(六回)

講座の受講は、原則は一期六回ですが当日受講も可能で、学割もあります。運営的には、講師の講義料をボランティア並に安く抑えることで、一講座に一五名の受講者がいれば赤字にはなりません。とはいえ、やがて教材備品の購入や設備投資などの必要も出てきますので、今は二年間の試行期間ですが、将来的にはNPO法人化して寄付金を募る事もして、本化宗徒が宗派を越えて研鑽する学校に発展させていく予定です。

最後に、私の個人的な考えになりますが、法華コモンズの今後の課題として三つほど挙げてみます。

一つは、法華コモンズで「日蓮主義の再歴史化」という課題を、どのように解決していくかということです。日蓮主義の再歴史化ということが、現代における近代日蓮主義の克服と蘇生である以上は、戦後の天皇制のあり方も含めて、日蓮思想における天皇問題の再検討を徹底して行わなければ、再歴史化が実現することはありえないと考えています。

二つは、法華コモンズをいかに行学二道(理論と実践)の場にしていくのかという課題です。法華コモンズは理論と実践を重視した本ネ研の理念を引き継いで、教学的には活発な議論による研究の深化をめざし、実践的には現代の諸問題に日蓮思想を活かしていくという、行学二道による研鑽の場をめざしています。今後どのように講座の中に実践的なテーマを増やしていくのか、おおきな検討課題となっています。

三つ目は、コモンズ(共有地)という名の通り、宗派や門流教学の垣根を超えて、門下一同の論議と交流の場となっていくことです。法華コモンズがプラットホームとなって宗派・僧俗を越えた交流をはかりながら、多様な要素をネットワーキングしていくことで、現代的なスタイルでの全日蓮門下による聖祖への帰一と合同を果たしていく、これが最も大きく困難な課題かと思います。

まだはじまったばかりの法華コモンズの活動は小さく非力ですが、皆さまのご理解とご参加を得ることで育てて頂き、やがて「聖祖への帰一」という大きな課題解決への一助となれますことを念願しまして、本日の話を終わらせて頂きます。ご清聴まことに有難うございました。