法華仏教講座 第2講:「日蓮遺文の賢王と愚王」講座報告

法華仏教講座 第2講:「日蓮遺文の賢王と愚王」講座報告
2020年11月24日 commons

11月24日(火)午後6時30分~、法華コモンズ仏教学林・令和2年度後期法華仏教講座の第2講として、高森大乗先生による「日蓮遺文の賢王と愚王」のご講義が執り行われました。
当初は常圓寺様での対面講義実施を見据えておりましたが、コロナ禍の状況に鑑みて、Zoomによるオンライン実況講義として開催されました。
高森先生は、立正大学の准教授を経て現在、日蓮宗要伝寺住職・日蓮宗専任布教師、日蓮宗勧学院嗣学・東京都台東区教育委員会委員と多方面でご活躍なされています。

今回のご講義における高森先生の意図は、先生ご本人により次のように記されています(講座パンフレット)。
「日蓮聖人は、『立正安国論』の上奏や度々の国家諫暁という行為にも示される通り、王法と仏法の関係に対する関心を強くもっていた人物として知られ、仏法の正邪によって王法の盛衰があること、国王の賢愚によって国家の存亡が決することを説かれています。では、その再、いかなる王を賢王とし、いかなる王を愚王とみなしていたのかが鮮明化されねばなりません。 日蓮聖人が、国主・国王の在り方を論じる場合、仏典や中国・日本の史書等に基づいて過去の先例を引き、現在(鎌倉時代の当時)に照らして、その是非を論じることが多い。仏典には、仏菩薩の前生譚や、過去世・未来世の物語に至るまで、数多くの国主が登場するが、講演では、印度・西域の王朝史・王統史上実在したことが認められる国王・帝主を中心に、日蓮遺文中の記述を整理し、日蓮聖人の国主観の一端を探ってゆく。」

講義が始まりますと、 高森先生は、先ず、日蓮遺文中に見える印度・西域王朝史・王統史上の国王を、紀元前六~五世紀頃の十六大国の時代から七世紀ヴァルダナ王朝期に至るまでの六王朝にわたり、代表的な国王を取り上げる形で委細に論じられました。十六王国併立時代の王として浄飯王、波斯匿王、頻婆娑羅王、優填王・優陀延王、阿耆達王・阿耆多王、波瑠璃王、阿闍世王、マウリヤ王朝期・シュンガ王朝期の王として阿育王、弗沙弥多羅王、クシャーナ王朝期の王として迦弐色迦王・迦弐志迦王、屹利多王・訖利多王、雪山下王・呬摩咀羅王、グプタ王朝期の王として檀弥羅王・檀弥利王、大族王・弥羅掘王、幼日王・幻日王・新日王、ヴァルダナ王朝期の王として設賞迦王・金耳国王、戒日王・喜増王。
それらの解説を通して、日蓮遺文に見られる賢王・明王、悪王・愚王、あるいは、賢者の出現と正法の流布、隣国の賢王による治罰、賢王と折伏について、また、『開目抄』の摂折義についても、正確な意味を詳説してくださいました。
その上で、
(1)印度王統史上の国王の行状を引く場合の日蓮聖人の基本的視点は、概ね仏法と王法の因果関係に置かれ、その態度は、中国・日本の史的叙述においても、ある程度一貫していること。
(2)頻婆娑羅王と阿闍世王、波斯匿王と波瑠璃王については、父子の関係に言及する際にも引き合いに出されることがある。
(3)賢王・明王とは、天地の道理あるいは法の邪正を弁えて政道を執行する国王で、政道に非ればこれを注進するような有能な賢者・諫臣を登用し、またその進言を汲み上げる度量を有した者、さらには人心を顧みず非道を行う悪王・暴君・愚王を誡責し治罰する者と規定する。
(4)印度王統史からは、仏教を擁護し統一国家を築いた王として、マウリア王朝の阿育王、クシャーナ王朝の迦弐色迦王などを、謗法禁断により愚王を廃絶し国家を再建した王として、クシャーナ王朝の雪山下王、グプタ王朝の幼日王、ヴァルダナ王朝の戒日王などを、それぞれ実例として挙げ高く評価する。
(5)悪王・愚王とは、天地の道理も法の邪正も弁えず、邪師や奸臣の言葉に誑かされて、正義・正法を軽んじ、邪義・邪法を尊び、あるいは正義を行う賢者や諫臣を弾圧・迫害する者と規定する。
(6)印度王統史からは、賢人の諫言を用いなかったために失位・亡国の末路を辿った国王として、釈尊在世中の優陀延王、クシャーナ王朝の屹利多王などを、仏法を破壊したために亡国・喪身の末路を辿った破仏・破法の国王として、釈尊在世中の波瑠璃王、シュンガ王朝の弗沙弥多羅王、グプタ王朝の檀弥羅王・大族王、ヴァルダナ王朝の設賞迦王などを、それぞれ実例として挙げ、今の日本国の現状を憂う。
(7)釈尊とその教団を弾圧した破仏・破法の国王でも、阿闍世王に関しては、後に懺悔・改心したことで救済されたことを説く。
(8)これらの先例をもって、日蓮聖人は、当時の日本国の為政者が模範とすべき態度を指南する。謗法に染まった国王であっても、信仰の寸心を改め実乗の一善に帰依することが肝心で、これにより天下泰平・国土安穏が実現すると主張する。
-とまとめられました。

Zoomの共有機能を用い、PowerPointでの視覚情報をも供しながらの明快な素晴らしいご講義でした。
貴重なご所見の数々をご教示くださいました高森先生、誠に有難うございました。

次回の法華仏教講座は、12月12日㈯、株橋祐史先生が「慶林坊日隆の『観心本尊抄』解釈について」の題でご講義くださいます。当日だけの聴講も受けつけていますので、是非、ご参加ください。お待ちしています。(スタッフ)