オンライン講座「日蓮主義をあらためて問い直す」第1回講座報告

オンライン講座「日蓮主義をあらためて問い直す」第1回講座報告
2020年8月1日 commons

6月に予定していた集中講座を延期して、全2回のオンライン講座とした大谷栄一先生の「日蓮主義をあらためて問い直す」第一回講義が、8月1日(土)午後3時より開催されました。当日は30名弱の聴講者がオンラインで参加、大谷先生は18頁となるレジュメを用意されて、実に密度のある充実した講義をして頂きました。
この講座は、大谷先生が昨年8月に出された『日蓮主義とはなんだったのか―近代日本の思想水脈』(講談社)をテキストとして、近代史において日蓮主義がはたした宗教的・社会的・政治的な役割について、再検討していくものです。『日蓮主義とはなんだったのか』は、序章と終章を入れて全15章の650頁をこえた大著で、明治中期から昭和の敗戦にいたる戦争と革命の近代に生きた日蓮主義者たちの行動と思想を描ききった日蓮主義全史ともいうべき本です。今回は、その日蓮主義を立ち上げた田中智学、本多日生、高山樗牛などの第一世代を中心に取り上げながら、日蓮主義の諸相を解明していただきました。
講義は、まず大谷先生ご自身の研究歴と日蓮主義の研究史の紹介から始まり、『日蓮主義とはなんだったのか』の目次を挙げて、その分析の視座については「日本が帝国であった時代の)トランスナショナルな日蓮主義の展開を踏まえて、日蓮主義からみたところの日本近代史(東アジア近代史)研究」だとしました。田中智学によって造語された「日蓮主義」の定義については、「『法華経』にもとづく仏教的な政教一致(法国冥合・立正安国)による日本統合と世界統一の実現による理想世界の達成をめざして、社会的・政治的に展開された仏教系宗教運動」としました。そこには、日蓮主義が「国体神話を媒介として国家と交渉するとともに、ナショナリズムの信憑構造を通じて、日本社会に普及していった」という、日蓮主義・国体神話・ナショナリズムの三位一体構造への重要な洞察があります。
そして日蓮主義者については、3世代に区分すると共に、「国家」についての考えを基準に次の4類型を提示されました。①国家的なグループ(田中智学・本多日生・清水梁山・日蓮門下教団)。②国際的なグループ(妹尾義郎=仏教社会主義、高鍋日統や戦前の藤井日達=仏教アジア主義)。③国家超越的なグループ(高山樗牛・北一輝・井上日召・石原莞爾)。民衆的なグループ(仏立講系・霊友会系・法音寺系・創価学会)。こうした広がりを日蓮主義が持ちえた理由として、「日蓮主義には、(ナショナリズムにおける)特殊主義と普遍主義の両側面があり、その普遍主義的側面が超国家主義、アジア主義、社会主義への展開(転回)を基礎づけたのである」と分析しました。
次に人物論として、日蓮主義の二大巨頭である田中智学と本多日生の略歴と思想に言及して、その折伏主義と互いの違いも詳しく説明し、次の国家超越的なグループに属する高山樗牛の日蓮論につなげていきました。樗牛の日蓮主義への傾倒は、田中智学の『宗門の維新』を読んでからの晩年1年数か月という短期間でしたが、7本の叙述を書くほどに没頭します。その日蓮論は、国家改造論というべき『宗門の維新』から入ったに拘わらず、「我が教えは地上の一切の権力を超越す」という国家超越的なもので、国家と結びつく宗教の在り方を明確に批判して、その矛先には智学も含まれていたとのことです。これに対して、智学は「国家主義はもとより悪くない、誠に結構、である、しかしながら此に就いて二つの異目がある」として、「世間的国家主義」と「出世間的国家主義」を区別します。出世間的国家主義とは、宗教的な見地から日本の国土の実相(本国土妙)を明らかにすることで、それは万邦を統御すべき約束の聖国=日本であり、「聖祖特に独り此日本国を選びて本尊戒壇の霊土と定めたる、之を出世間的国家主義といふ」と述べています。大谷先生は、こうした国家観の違いを整理して「日蓮門下…世間的国家主義(世俗的ナショナリズム)」・「樗牛…超国家主義」・「智学…出世間的国家主義(宗教ナショナリズム)」と三つに分けました。
樗牛は、智学に日蓮主義の組織宗学の執筆を依頼しますが完成を見ずに逝去(明治35年)。その翌年に智学は執筆した「本化妙宗式目」の講義を開始して、本門戒壇の建立による法国冥合=日蓮仏教の国教化が明らかにされます。また、世界の大戦争(大闘諍)を前提とした世界統一についても語り始め、やがてこうした終末論的なヴィジョンが日本社会に普及していった、と指摘されました。そして、今回のまとめとして、●日蓮主義の近代性、●日蓮主義のスピリチュアリティ、●日蓮主義とナショナリズム、の三点を説明して、次回へつなぐ結びとして講義を終了されました。
続いて、質疑応答の前に大著『日蓮主義とはなんだったのか』を編集された講談社の横山建城氏にコメントを求めました。横山氏は、ネット書店「アマゾン」に書評を載せていて「日蓮主義に顕著なのは強烈な「此岸性」「在家性」「能動性」です。仏国土はこの地上にあり(娑婆即寂光)、人はそのために生きねばならない。」と書かれています。コメントでは講義の感想と編集時の苦労などを貴重な御意見と裏話をいただきました。その後の質疑応答では、オンラインにも拘わらず積極的な質疑が続き、一時間近くもオーバーして充実した第一回講義を終了いたしました。大谷先生にはあらためて御礼申し上げます。
次の第二回は、一週間後の8月8日(土)の午後3時からです。次回が最終回ですので皆さまご参加を宜しくお願いいたします。(スタッフ)