講座「承久の乱から考える日本仏教」第4講オンライン講座

講座「承久の乱から考える日本仏教」第4講オンライン講座
2020年7月7日 commons

2020年7月7日(火)午後6時30分より、菊地先生の講座【歴史から考える日本仏教⑤】〈承久の乱から考える鎌倉仏教〉第4講「乱後の世界を見わたす」が行われました。前回第3講に引き続き、菊地先生がご自宅よりZoomによる動画を生配信し、会員の方々が各々オンラインで受講しました。最終講座となる本講座では、『愚管抄』、『玉葉』等の史料を引用解説し、慈円の思想を中心に、承久の乱後の社会と鎌倉仏教についてご説明くださいました。以下、内容について要点をご紹介します。

第3講にて確認した日蓮と承久の乱を踏まえ、今回は慈円と承久の乱について、その生涯と思想を中心にご説明いただきました。天皇家、百王思想、自らの出身であり摂関家でもある九条家、実兄の九条兼実との関係などを中心に確認。

慈円は天皇について「継体守文を以て先と為す」、即ち武力ではなく文治により日本の皇統は続いてきたのであって、日本の百王とは継体(血のつながり)であると述べる。百王において国が滅びると説くが、じつは百帖の紙を使い切れば、継ぎ足しながら結局は紙が途切れないように王権は継続すると説く。

九条家出身の慈円は、青蓮門院跡継承を約束され出家した。以後、九条家の繁栄を宗教的に支えるべく貴族僧として活動した。兄の九条兼実は源頼朝のバックアップを受け摂政、後に関白となり絶頂期を迎える。これに連動し慈円は建久3年(1192)初めて天台座主に就任、後に兼実が失脚し慈円も連動して天台座主を辞すが、慈円は、兼実―良通―良経―道家と継承されてゆく九条家の繁栄を、僧侶としてバックアップした。また自身の祈りが九条家の隆盛をもたらしたと確信しつつあるなか、承久の乱により劣勢になったことに大きなショックを受けた慈円は、その意味をさらに思惟しながら九条家の再興を祈る。

慈円の祈りの構造は、天下のことは尊神の約諾によるのであり、器量のある人を選んで擁護すべき、この心中の祈願は時運の道理であると説く。これは日蓮『諌暁八幡抄』に通じる祈りの構造である。慈円にとっての現代史は保元の乱に始まり、日蓮にとっての現代史は承久の乱に始まる。両者の活動時期は30年を経ており、その思想構造は時代背景の影響を受けて大きく異なる。

慈円は、夢想をもとに冥顕思想を発展させ『愚管抄』を著した。晩年、神仏に多くの願文を捧げ、その感応によって夢想を得ると宗教的に解釈した。保元の乱に始まる戦乱により画期づけられた社会・政治情勢の行方を宗教的に解釈しながら、社会平和と九条家の繁栄を祈り続けたが、承久の乱により破綻した。晩年は、王権と幕府との複合的な関係を、神代からの約諾と解釈し、紙を継ぎ足すように永遠に続くものと祈り続けた。一方、乱後30年を経て活動を開始した日蓮は、承久の乱を回顧することにより、対モンゴル戦争という近未来を展望した。(日蓮と承久の乱については、第3講を参照。)

今後の検討課題として、日蓮がこの歴史観を誰と共有しようとしていたのか、日蓮とその周辺における時代の在り方、過去の振り返り方が重要、と指摘。2時間に及ぶ濃密な講座が終了しました。

新型コロナウイルス感染の影響により、今回もZoomによる動画配信という形となりました。しかし、毎回最先端の研究をご紹介くださり、且つ様々な史料を提示し微に入り細を穿つご説明をいただき、加えて先生の鋭い見識に裏打ちされた所感を拝聴できる。この点につきましては、対面から動画へと配信の形が変わろうとも何ら変わっておりません。後期10月からは「日蓮と蒙古襲来の時代」(全3回)となりますので、多くの皆様の聴講をお待ちしております。なお、今後の講座につきましては、新型コロナウイルス感染の状況を鑑みながら、対面あるいは動画配信による講座となります。詳細につきましては「法華コモンズ」ホームページよりご確認ください。(スタッフ)