講座「仏教説話の世界」第4回講座報告

講座「仏教説話の世界」第4回講座報告
2019年7月6日 commons

去る7月6日(土)午後6時45分より岡田文弘先生の最終講座「仏教説話の世界」が開講されました。第四講は「日蓮聖人と説話」をテーマに、「1.『法華験記』から日蓮聖人へ」、「2.逆縁の済度」「3・『法華伝記』から日蓮聖人へ」という章立てで講義が進みました。

1.『法華験記』から日蓮聖人へ」で先生は、『法華験記』の成立背景・特色を「末法意識」、「遁世的な法華経持経者への着目」、「悪機済度」と説明されました。『法華験記』と日蓮は二百年の時代の開きがあり、日蓮が『法華験記』を読んでいたという証拠はないが、西暦千年前後に末法意識が高まり、寺院から離れて活躍する持経者が脚光を浴びるようになり、劣機・悪の救済が要請される時代の中で成立した『法華験記』と、日蓮の思想である「末法意識・持経者・悪機、逆縁の済度」という点に親和性を感じると指摘されました。さらに「2.逆縁の済度」では「逆縁」に着目して、『法華験記』『法華伝記』と『法華経』『日蓮遺文』に共通しているところを示されました。

次に「3、『法華伝記』から日蓮聖人へ」では、『法華伝記』の成立年代を解説されたのち、「李遺龍」の説話が、日蓮『法蓮抄』に引用されているところから「日蓮は『伝記』を読んでいたことが確実」として、両者の共通点や日蓮の独自性を感じるところを説明されました。さらに『法華伝記』において「唱題」を勧める説話があることを取り上げて、二つの『法華伝記』の説話を比べて、両話ともに愚者・劣機が「唱題」していること、他者に功徳をもたらす「利他行」としていることを指摘。こうした唱題の説話が、日蓮の「凡夫の唱題成仏」や「自利利他」の宗教的理想につながっていったのではないかと述べて、講義は終了しました。

 

通常の仏教学研究の視座からこぼれ落ちてしまうような多様な仏教信仰の形である「仏教説話」が、文化的にも多大な影響を与え、民衆の間に根付いた「生きた仏教」であり、説話文献の時代背景や特色を考えることの重要性を教えていただけたのが岡田先生による講座「仏教説話の世界」でした。(スタッフ)