後期特別集中講座第二講

後期特別集中講座第二講
2018年12月8日 commons

12月8日(土)午後3時より、渡邊寶陽先生の特別集中講座第2講「『観心本尊抄』鑚仰」が開講された。今回も日蓮教学研究界の重鎮の登壇とあって、諸教団の研究者から学徒まで多くの聴衆が駆けつけ盛会となった。
この渡邊先生第2講では、日蓮聖人の御遺文中、最高峰に位置づけられる『如来滅後五五百歳始観心本尊抄』(以下、『観心本尊抄』と略称)について、その最も中心となる第20番答の本尊段を集中的にご講義頂いた。
今回の講義では、受講者用テキストとして、先生が著された『國寶『観心本尊抄』鑚仰』(山喜房仏書林、2013)の206~227頁コピーが配布された。同書は、【御真蹟原文(御真蹟影印)】【釈文(『昭和定本日蓮聖人遺文』の解読文)】【読み下し(白文書き下し文)】【大意】【鑚仰】と章節毎に読み進めることができる、初学者にも研究者にも非常に便利で、内容的にも極めて優れた書籍である。
本講では、テキストに基づきながら、明快に日蓮教学の根幹についての解説がなされた。時にその周辺事項や、渡邊先生ご自身の歩みの回顧録を交え、充実した二時間が瞬く間に経過した。
先生は『観心本尊抄』を観心段(第1番問答~第20番答中程)・本尊段(第20番答中程~第20番答終わり)・弘通段(第21番問答~第30番問答)に分け、第20番答の中程から始まる【本尊段】を「それ寂滅道場華蔵世界……」の説示から丁寧に解説して行かれた。そして、「今、本時の娑婆世界は、三災を離れ四劫を出でたる常住の浄土なり。仏既に過去にも滅せず、未来にも生ぜず。所化以て同体なり。此れ即ち己心の三千具足三種の世間なり」という有名ないわゆる「四十五字」が、爾前経と法華経迹門で明かされる、三災を伴う四劫の無常性から免れ得ない仏身・仏土の世界を超えた、真の常住の世界であり、これが本門の発迹顕本によって表され、行者(末法題目受持者)の信行世界に活現すると明かされること、すなわち、題目受持の当処「己心三千具足三種世間」と現成するところに本門法華経の特徴があることを明快にご講義くださった。
引き続き、渡邊先生は、『観心本尊抄』【本尊段】のその後に展開される題目の本化への付嘱、本尊の相貌など、日蓮聖人の真意を原文忠実に解説してくださった。
また、講義の中で、渡邊先生は、今日的な視点として、天台大師が『摩訶止観』巻第五第七正修止観章で一念三千を開陳されるまでの天台哲学深化の様相や瞑想修行の階梯や、あるいは、天台教学研究の泰斗・安藤俊雄博士が指摘した天台教学における法華円教理論の枢要である敵対(じゃくたい)的相即の論理などに注目していくべきこと、更に、「四十五字」を読み解く際の文中「本時」の重要性に今日あらためて注目すべきことなど、重要なポイントをご教授くださった。殊に、題目を単に五字ではなく五字・七字と示された日蓮聖人の深意を汲み取るべきことの重要性、題目が静止的な教えではなく、躍動的で、末法の衆生を救済する能動性を有することを強調されていたことは印象的であった。
講義終了後の質疑応答では、曽て教学界を賑わせ今日も高い関心が持たれている、山川智応・清水龍山両先生の間で論争された『観心本尊抄』「四十五字」文中の「己心」の解釈をめぐって、渡邊先生のご所見をご教示頂いた。渡邊先生は往時の大学内の様子をも直接見聞されている数少ない先生のお一人でもあり、興味深いお話を伺うことができた。
二回にわたる講義は、何れも内容的に刺激に満ちたご講義であった。
全体を通して、日蓮聖人研究の第一人者として長年斯界を牽引されてきた渡邊先生のオーラと凄みを眼前で感じることができ、受講者全員にとって大変幸せな時間であったと思う。
渡邊先生には、心より感謝申し上げる次第です。誠に有難うございました。(スタッフ)