『歴史から考える日本仏教-鎌倉時代を射程に入れて』第1回講座報告

『歴史から考える日本仏教-鎌倉時代を射程に入れて』第1回講座報告
2018年4月14日 commons

4月17日(火)18時30分より、菊地先生による新講座『歴史から考える日本仏教-鎌倉時代を射程に入れて』と題しての講義が開催されました。
菊地先生は前講義の「『吾妻鏡』と鎌倉仏教」では、鎌倉時代当時の多くの資料を参考にその時代背景を紐解いて、「日蓮」と名乗る一介の僧の動静を源家や北条家がどう見たのか、また為政者として日蓮一門にどのように対応したのか、などを御講義下さいました。
今回の講義では、菊地先生は「日蓮聖人自身がいかに奥深い多様なお考えをお持ちになられていたかを知るためにも、その時代背景を様々な角度から組み合わせていく事で見え方が違ってくることや、また寺院・経典・教理書などに肉付けしていくためにも、政治・経済・社会・文化の領域を取り入れて検討していく事に意義がある」として、時代の流れと人々の関わり方という前提をきちんと把握という意味でも、今回の「山の宗教を考える事は日本仏教を考える上でも重要な意味がある」と話されました。
ご講義前に、布施学林長からも「私たちは、日蓮が生きた鎌倉時代を考える時、とかく日蓮聖人の生涯にのみにスポット当てて考えていく傾向がある」として、広く日本仏教の歴史上に日蓮聖人を見ていくことが必要との話がありました。以下、講義内容を要約いたします。

第一講「山の宗教と原像」日本仏教と山林修行との関係について、
1「古代人と山‐山にはいるということ」
(1) はじめて富士山に登った人は誰かということを挙げられ、聖徳太子の伝記について記述がある10世紀頃の書物で、『聖徳太子伝暦』の推古天皇六年条の記述には、聖徳太子の「富士山登山」のことがみえ、伝説的には最初の一人であったと窺える文献を提示されました。然しそれらの伝記には、「登る」と言うよりは、飛んでいった」とあり、他の史料(『続日本記』文武三年条)にも同じく、「役行者が瞬間的に移動した、飛び越えていった」と言うような表現での記述が見られたことを紹介しました。
(2)大和大三輪山=カンナビ山の典型 カンナビは神の在します所で、山の頂や、その形状のみを言っているものではなく、また山だけではなく川や森も指す意味があったとする説を紹介しました。また『万葉集』には、たまかずら・あき萩など、奈良盆地の周辺の森林を伐採した後に固有に生息してくる植物が多く詠まれている事を挙げられ、山の頂上をあらわしているというよりは、裾野付近に注目が集まっている事を指摘されていた。また、『万葉集』の「カンナビの用例」にはホトトギスが詠み込まれているが、ホトトギスは鶯に托卵する習性があり、その生息域が同じく山の裾野である事、ホトトギスが夜更に鳴くと詠われているいることから、山体は見えなかったはずである事も例に挙げ、その根拠とされていました。
(3)山をあらわす和語の検討「嶽・岳・根・峰・嶺」などの和語を検討すると、カンナビとは、高い場所に限られたものではなく、山の裾野がいかに広大に広がっているかを想像することが出来る事から、「裾野」を指すという意味があったのではないかと述べられた。
※2「山の世界をコントロールする-仏教の伝来」、3「山の裾野に結集する僧団」は省略します。

今回の講義では、「山そのものの見方」について、「超越的・普遍的・神秘的」と言う印象を持っている現代人の見方や概念を見直す意味や、山と人との境界領域で起こっていた歴史の流れがあった事も踏まえて、前近代の人々の中では山との関わり合いはごく一般的であって、現代人とは異なり、下草を刈ったり枝を間引いたりすることで、人の手によって「神聖な場所」=「森林を保護する」と言う意味があった事を述べられました。
前近代には身近な関わりだった山が、むしろ近現代においては「神聖(神秘的)な場所(霊場的な意味)」とされて、明治以降、「禁足地」とされて、立ち入り制限が目立って行った場所もあったとのことです。こうした人と山との関わり方の変化や、その信仰との関わり方をみていく時、古代縄文弥生時代の人達がどう見ていたのか、古代人と現代人との感覚の違いが既にあった事は、容易に想像できる事を指摘されていました。
また山への入り口に繋がる「境界線」ともいえるラインの周辺には、徐々に人々の生活圏が拡大していき、仏教の伝来と共に、古くからの山岳信仰の中に徐々に仏教思想が浸透していったことを指摘されました。こうした山の宗教からみた日本仏教とはなにかという今後の講義の展開に、大いに期待が高まりました。
次回の第二回目は、5月15日(火)18時30分 からの開始となります。皆さまには、ぜひ受講しないと手に入らない貴重なレジュメと、その場でしか体験できない臨場感のある講義への御参加をお願い申し上げます。
(文責:スタッフ)