一日集中記念講義・開校式

一日集中記念講義・開校式
2016年5月28日 commons

《 一日集中記念講義と開校式の報告 》

 

法華コモンズ開校を記念する特別講座として、末木文美士先生による1日集中講義「現代における仏教倫理の可能性」が、5月28日(土)午前10時半より午後4時半にかけて祖師堂の地階ホールにて開催されました。この特別講座には60名近い受講者が参加、およそ4時間半に及ぶ講義を熱心に聴講しました。その後、引き続き「法華コモンズ仏教学林」の開校式と祝賀会が行われました。

末木先生の集中講義「現代における仏教倫理の可能性」は、「Ⅰ伝統と現代」「Ⅱ大乗仏教における菩薩」「Ⅲ『法華経』の菩薩」という3部に分かれ、まず現代世界の思想状況という大きな視点をふまえて、その中での仏教の役割を論じながら『法華経』の菩薩思想の可能性に絞り込んでいくという、大変刺激に充ちたものでした。その後の質疑応答も活発に行われて、充実した講義を終了しました。以下に簡単にその内容をまとめておきます。

 

 

(末木先生講義の概要)

「Ⅰ伝統と現代」では、東西冷戦の終結後に起きたテロ事件やイラク戦争また自然災害や原発事故によって、戦後のマルクス主義に代表される近代的進歩主義の行き詰まりが明らかになり、安倍政権にみられるように政教分離の見直しも含めて「伝統を読み直す」試みが顕著になってきた。しかし、その「伝統」という歴史的経緯にも大中小の三つの伝統があるとして、①小伝統(=戦後)はアイデンティティとしての「平和」、②中伝統(=近代)はアイデンティティとしての「天皇(国体)」、③大伝統(=前近代)は集約としての近世、とみることができる。そして、左派の小伝統主義も右派の中伝統主義も超える可能性として、近代と対比される近世への視座をもつ大伝統をどう見るかが、重要な課題となる。その補助線として、弱者や他者に配慮する「ケアの倫理」や他者との関係性を重視する他者親密型の文化類型を挙げて、ヒントとする。

「Ⅱ大乗仏教における菩薩」では、ケアの倫理の対象となる「他者」を取り上げて、他者には①現象している他者の他に、②死者や、③神仏も含まれるとする。そして、人と人が関係する公共性を「顕」の領域とすれば、他者・死者・神仏という「他者」は「冥」の領域とする伝統的な世界観があることを指摘して、現代の問題に解答を与えうるものとして大乗仏教の原点にある「菩薩の倫理」の再認識を提起する。

この菩薩の倫理は、他者との関わりを重視するケアの倫理の発展であり、また死を超える倫理ともなる。死を超える菩薩の倫理とは、親鸞のいう「往相」と「還相」の二種回向にみられる浄土(仏)と娑婆(衆生)の往還がそれである。また、『碧巌録』第55則にあるように、死去した師匠の言葉が弟子の内に復活して悟りに至らせることでもある。

あらためて菩薩とは何か?と問えば、自利利他と六波羅蜜を行とする菩薩とは「他者と関わらざるを得ない」「現世を超える」ことを特質として、終わりのない行を続けるものであるといえよう。この大乗仏教の菩薩とは、ブッダの前世で特殊な苦行をした菩薩と違って、他者と関わらざるを得ない存在(=衆生)として、また身近な他者に関わる実践を行とするものとして、「誰でもの菩薩」である。四弘誓願の誓いは、そうした「死を超えて働き続ける菩薩」を示しているという。

「Ⅲ『法華経』の菩薩論」では、まず菩薩の特質として①他者(了解不可能な存在)と関わらざるを得ない(そのため固定的な自我は崩壊せざるを得ない)、②現世を超える(そのため固定的時空間は崩壊せざるを得ない)の二点を再確認し、それを菩薩の倫理学の基礎として「存在としての菩薩」から「実践としての菩薩」へと向かうため『法華経』に言及していく。

そして、苅谷定彦先生の「一切衆生は菩薩である」という『法華経』解釈にもとづいて、その成立を論じていく。第一類の基調は、「声聞も実は他者なくしてあり得ない菩薩だった」という二乗作仏(声聞=菩薩論)であり、自覚的に他者と関わる地涌の菩薩とは「実践としての菩薩」ではないか。また、第二類は「仏滅以後という死後のあり方について、生前の仏が語る」という構図が基本で、「二仏並座」とは多宝如来という死者と釈尊という生者が並び立つことであり、久遠実成とは「生者と死者の合体」または「死者そのもの」ではないか、と論じていく。そして、現代における死生観と倫理の混乱を克服する方途として、「菩薩の倫理学」の①他者とか関わる(ケアの展開)②生死を超えるという二点にもとづく「実践としての菩薩」道を提唱して、まとめとした。

 

 

(開講式と祝賀会について)

末木先生のご講義終了後、受講の皆さんにもお手伝い頂き会場を祝賀会スタイルに並び替えて、法華コモンズ仏教学林の開校式を行いました。各講座や教学委員の先生方に前に並んでいただき、まず西山茂理事長(東洋大学名誉教授)のご挨拶を頂きました。西山理事長は「日蓮教学の根本には実践があります。この法華コモンズで教学と実践の両方を学んで、現代社会の中で日蓮教学を〈再歴史化〉させて頂きたい」と語りかけました。次に布施義高校長(法華宗陣門流教学部長)が立って、「この法華コモンズには門流を超えて素晴らしい先生方がご協力下さっています。「出でよ、次世代を担う仏教界のリーダー」という西山理事長の呼びかけに応えるように精進していきたい」と挨拶しました。

続いて、司会より運営スタッフと教学委員ならびに講座担当スタッフの紹介が行われました。ブログに載っていないので、ここで紹介すれば法華コモンズの教学委員と講座担当スタッフは下記の方々です。なお講座担当スタッフの皆さまは、それぞれの講座の運営とブログ報告をボランティアで行っています。

 

《教学委員》

上杉清文氏、花野充道氏、菅野博史氏

 

 

《講座担当者》

〇講座①担当―小松正学氏、稲田隆広氏  〇講座②担当―松永良樹氏、影山海雄氏

〇講座③担当―波田地克利氏、林明彦氏  〇講座④担当―稲田隆広氏、持田貫信氏

〇講座⑤担当―竹内敬雅氏、大賀義明氏

 

続いて、乾杯の音頭を教学委員の上杉清文先生にお願いして、軽食と飲み物での祝宴が始まりました。開宴中、ご出席の講座担当の花野充道先生、菅野博史先生、末木文美士先生には順次にご祝辞を頂き、またご列席頂いた各方面の要人の方にも失礼ながらその場で祝辞をお願いし、多くの方々よりお祝いの言葉を頂くことができて、大いに祝宴を盛り上げることができました。また選択の講座をこえての受講生同士の交流も盛んに行われて、簡素ながらも法華コモンズの開校式にふさわしい賑わいの内に宴を閉じることができました。ご列席の皆さま方には、後片付けも含めていろいろとお手伝い頂き、また貴重なご意見を頂戴することもできましてあらためて篤く御礼申し上げます。有難うございました。